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ヒット・アンド・アウェイでもてなす客を

彼らはふたりで暮らしている。彼女はせっせと人と会っている。家に呼び、料理をふるまい、酒を飲む。彼はひとりでいる時間を大切にしているから、彼女の知り合いが来ているあいだ、かならずしも出ずっぱりにはならない。たとえば、彼は日課として決まった時間のあいだノートに向かうことにしているので、まだ日課がすんでいなければ、喫茶店でそれを済ませてから、戻ってきて会に参加する。あるいは、何時間もぶっ続けでおしゃべりして、それでもまだ終わりそうにもないときに、寝室に引っこんでひと休みすることもある。暗闇の中で横になり、目をつむって、カッカした頭を冷ましてから、リビングに戻ってくる。客も心得ているから、あえて気を使ったりはしない。ヒット・アンド・アウェイ方式である。

彼らはふたりともおしゃべりだが、彼女の方がほんの少し余計におしゃべりだ。遊びに来る知り合いは面白い人しかいない。三人いれば敵なしで、五人そろえば事業が立ち上がり、十人集まれば世直しもできそうな勢いだ。知り合いの八割が女性である。彼女たちがひっきりなしに訪れる自宅では、けっして退屈することがない。だからむしろ、退屈を提供することが彼の役割になっているくらいなのである。若く、賢く、共通した怒りを抱えていることも多い友人たちは、いつも大抵ふるまわれる手製のミートローフをほおばり、持ちよったワインをがぶがぶ飲んで、最新の流行について情報交換している。ヒット・アンド・アウェイ方式で彼はあらわれて、古い本の話をしたりする。ときどき彼は変わっているといわれるが、それは客がみなひとしなみに変わっており、彼も同じく変であるという意味だ。

ふたりは、昔は田んぼだったところに住んでいる。街路樹が立ち並び、住民に手入れされた花壇には、チューリップやパンジー、ガーベラなんかが植わっている。小学校から大学までそろっていて、大きな図書館では専門書を借りることもできる。とてもいいところなので、通勤なんて二度としたくないと思うくらいだ。週末になると、ふたりは何もしたくない気持ちでいっぱいになる。ベッドの上に横たわり、「何もしたくない」「どこにも行きたくない」「誰にも会いたくない」「何にもなりたくない」と言い合う。しかし、結局は何かをして、どこかへ行き、誰かに会って、何者かにならずにはいられない。そうやって、いつでも新たな問題がよばれるのだ。

文字数:990(テーマ:客)

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鎌塚 亮
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