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ここは青山

 洋服の青山の看板がやけに美しくみえる夕方がある。

 別段、あの店や企業に思い入れがあるわけでもなく、ロゴや配色をデザインとして偏愛しているわけでもなく、だのに、あの巨大な看板に夕陽が射して赤く照らされているのを目にしてなんともいえない気持ちになることがある。

"大河のようにどこまでもつづく幹線道路。道の両サイドにはライトアップされたチェーン店の、巨大看板が延々と連なる。ブックオフ、ハードオフ、モードオフ、TSUTAYAとワンセットになった書店、東京靴流通センター、洋服の青山、紳士服はるやま、ユニクロ、しまむら、西松屋、スタジオアリス、ゲオ、ダイソー、ニトリ、コメリ、コジマ、ココス、ガスト、ビッグボーイ、ドン・キホーテ、マクドナルド、スターバックス、マックスバリュ、パチンコ屋、スーパー銭湯、アピタ、そしてジャスコ。 こういう風景を〝ファスト風土〟と呼ぶのだと" (山内マリコ『ここは退屈迎えに来て』 収録「私たちがすごかった栄光の話」より)

 地方のどこにでもあるような見慣れた郊外・見飽きたロードサイドの姿と、そこに生活する者たちを活写し、極めて同時代的な情景と時代精神を正確にフォーカスして鮮烈に登場した山内マリコによる傑作小説『ここは退屈迎えに来て』('12)。

あの作品を読んだ2012年から、たったの8年しか経っていないのに、郊外からは、その見飽きていた風景すらも消失してゆくのではないかという予感が日に日に増してゆく。現代小説が時代小説になってしまったかのような錯覚が自分の中に生まれている。どこにでもあるようなまちすら、どこにだってあるわけでもなくなってゆく、とでもいうような肌がチリチリとする感覚が拭えない。


私がnote上で
〈どこにでもありそうでいて──何処にでも、ある。〉
〈どこでもなく、そこでもあるが、此処にしかなく。〉
〈そんな写真が撮れるといいなあと、いつも思っている。〉

〈not anywhere, but there.〉
〈everywhere, not anywhere.〉
〈unknowns, uncommons, ur places.〉

などと掲げて並べている「unknowns, uncommons, ur places.」という写真群は、前述したチリチリとした感覚を撮れないものかなあ、というところから始まっている。(ちなみにタイトルが示すように、Stephen Shoreという写真家の『Uncommon Places』という作品にたいへん影響を受けております、はい)

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