ハレケ弁〜駅弁について
阪神梅田本店で「阪神の有名駅弁とうまいもんまつり」という催しがやっている。期間は1/19(月)〜24(月)。以前の経験からすると子連れで行くには混雑が過ぎるので初めから諦めていた。
スーパーの惣菜売り場や催事スペースに時折ある小規模な地方駅弁ワゴンのことを不思議に思っていた過去があった。百貨店の巨大イベントとは違い、せいぜい多くても十種類ほど並んでいる小さなワゴン。駅弁というのは旅先や新幹線の中で食べるからうまいものなんじゃあないのか?こんなカニ弁当でこの値段を出すなら鮮魚売り場でいい刺身が買えるだろうに!などと。まったく軽率で浅はかな考えだった。ベビーカーを押しながらの買い物のついでにスーパーで買ったビフカツ弁当を食べながら「ああそうだったか、気軽にブラリと遠出だとか、そんな移動が様々な理由で制限されているひとのためにも駅弁フェアはあるのだな」と合点がいった。ベビーカーを押すようになってから、そして子連れで外出するようになってから、朝から夜まで未就学児の面倒をひとりでみるワンオペを何日も連続するようになって(ちょうどこれを書いてるときは7〜21時まで14時間×三日間連続のワンオペだった)から、ようやく理解できた世の中のことがあまりにも多すぎる。育児に疲れていたある日にスーパーで買ったこのビフカツ弁当はその夜とても優しく嬉しい食事となった。
駅弁には、カニやウニなどといった高級食材や地元の名産を1点豪華主義的にメインフィーチャーした「ハレ弁」と、幕の内弁当などに代表される普段食の延長線上にある「ケ弁」の二通りがあるように思う。はっきりいってしまうと味だけなら後者の「ケ弁」のほうがうまいことが多い。たとえばこんな感じの。
肉や名物よりも煮物とかだろやっぱり。
私見として、駅弁を選ぶ際には「カニエビウニは避ける」「なんとか牛ステーキやアワビなど1点豪華主義も避ける(ただし牛たん弁当は除く)」「単にうまい弁当を食べたいなら地産地消系の幕の内」くらいのルール設定をしてきて、追加として「迷うしどれも割高に見えてきた、カツサンドなら安心だろう」という罠にも注意するようになった。もちろんカツサンドはうまいけれど「カツサンドが食べたい」タイミング以外で食べてもそれほど心踊らせてくれない、カツサンド欲専用品で、リスクヘッジとしてカツサンドを選択しても満足には至らない。だのに駅弁売り場では安牌に見えてしまうトリックがある。カツサンドはカツサンドを食いたい時に食うのがいい。
駅弁は好きだ。私が特に好きなのは新潟県直江津駅の駅弁「鱈めし」。最後に食べたのが2013年、九年前なのでいまでもあるのかはわからない。棒鱈甘露煮、焼きタラコ、山海漬、鱈の親子漬。それぞれのオカズの味付けのバランスが絶妙だった。
ハレ弁とケ弁が同居したいわば「ハレケ弁」の中に特筆すべきバランスのものがある。「鱈めし」はまさしくこれだった。
個人的な体験の思い入れを味付けに加えてもよいのなら、函館駅の「鰊みがき弁当」がNo. 1だ。食べたのがあまりにむかしのことなので写真が残っていない。札幌〜東京間を寝台列車で移動したことがあり(やたらに時間がかかった)、寝そべっているか列車内をぶらつくかしかやることがなく、当時はスマフォもなく、自分は車酔いするたちなので本も短い時間しか読めない。あまりに暇なのでいろんなことを考えていた夜に食べた。考えるのにも飽きたので駅のホームよりも低いベッドからただ外を眺めていた。暇すぎていろんなことを考える夜、以前にはそんな夜があったという想い出に涎が溢れる。唾を呑み込む。