かなえられない小さな願い
支援に「絶対」はありません。常に「これでいいかなぁ」、そう思いながらふりかえることがだいじです。利用者の好みは変わります。この前、好きだと言っていたことが今年も、来年も好きとはかぎりません。そこの確認もしながら支援をします。
私は、障がいのある人が利用する社会福祉法人を経営しています。この仕事について30年以上が経ちます。しかし、30年経った今でも現場に立つと「これで良かったかなぁ…」と思うことばかりです。とくにグループホームで支援をしているときはなおさらです。
小さな願いはかなえづらい
グルーープホームでは、利用者のちょっとした願いが支援者の都合で実現されないことがあります。支援者は、大きな問題や希望については積極的に対応します。しかし、日常のちょっとした希望は、流しがちです。利用者から指摘されたり催促されてあわてて改善をすることがあります。
以前、ある利用者から電話をもらいました。グループホームのドレッシングがいつも同じ和風ドレッシングで嫌だと言う訴えでした。支援者に話を聞くと、健康のためノンオイルの和風ドレッシングに統一していると言います。ただし、そこには支援者の都合も否めません。ドレッシングを都度、選んでいただくのは大変です。最初は手間です。しかし、それもやり始めればすぐに慣れます。今では、複数のドレッシングがテーブルに置かれています。
また、ある利用者は、泡風呂が好きです。アメリカ映画で、マリリンモンローが入っていたような泡風呂です。さすがにそこまで泡立たなくても、湯船の中で石鹸だらけになるのが大好きです。自宅では、一番最後にお風呂に入って長時間、湯船で楽しんでいたといいます。しかし、平日のグループホームではかなえられません。今は、休日の昼間に楽しんでいただくことで納得をいただきました。この人は、私が直接支援をしていたので、男性です。
きゅうすで入れたお茶、熱いお茶が飲みたい
私のお袋は、特別養護老人ホームで生活をしています。今は、面会ができません。電話でしゃべったあとに差し入れを持って行きます。お袋に「なんか欲しいものある?」と聞くと「きゅうすで入れたお茶が飲みたい」と言います。若い人の感覚では、緑茶はペットボトルで飲む物だそうです。しかし、お袋の世代は違います。「緑茶はきゅうす」です。この希望もかなえることができません。
あるグループホーム利用者から「髙橋さん、熱いお茶が飲みたい。」と言われたことがあります。支援者に話を聞くと、火傷防止の観点から提供るお茶は少しぬるめにしていると言います。利用者の中には、目の前に置かれた物を一気に飲んでしまう人がいます。その危険を回避するために、常にぬるめのお茶を提供していました。
好みを聞く
福祉サービスは個別支援が原則です。しかし、6名の利用者に対して支援者が一人では個別支援ができません。いつも「あたりまえの願い」がかなえられずに申し訳ないと思っています。
また、支援に「絶対」はありません。常にこれで良かったのかなぁ、もしかしてこっちの方が良いかなぁ、30年働いていても、好みの支援は迷います。好みを聞く、大切にしたいと思います。