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想像を超えた言葉、質問、会話、その裏側
「りょうじゅさん(私)って、不倫したことある?」
昼食を食べているときに女性の利用者に質問されました。もちろんありません。しかし、突然聞かれてドキドキしてしまいました。
私は、障がいのある人が利用する社会福祉法人を経営しています。利用されている人たちは、おもに知的な障がいのある人たちです。また、法人の本部は、事業所の中にあります。そのためお昼ご飯は利用者の皆さんと一緒に食べます。
昼どきの会話
コロナ以前、私は食堂で利用者と一緒に昼食を食べていました。今は、食堂の密を回避するために会議室で利用者と一緒に昼食を食べています。一緒にご飯を食べる利用者はおおむね決まっています。今年の3月までは無口な男性二人でした。今は、女性が2~3人です。にぎやかです。
女性たちの話題は、アイドルの話が中心です。私は、その横であいづちを打っています。ときどき「その人、名前なんて言うの?」と話に食い込みます。すると「〇〇くんだよ。この前も教えたじゃん」と言われます。さらに別の利用者には「りょうじゅさんに教えても覚えられないよ、もうおじさんだから。」と言われてしまいました。
お昼どき、その女性の利用者の一人に「りょうじゅさんって、不倫したことある?」と質問されました。女性たちの会話に翻弄されています。
テレビドラマのセリフから
この仕事をしていると、利用者の突発的な言葉に驚かされたり笑ったりすることがあります。また、その言葉はテレビの影響がほとんどです。テレビドラマのセリフをまねています。
女性の利用者と一緒に地下鉄に乗っていたときのことです。私の横で利用者が大きな声で言いました。「髙橋くん、お願いここではやめてね」
周囲の乗客の視線は、いっせいに私に集まりました。
また、一人の男性利用者が女性の利用者とケンカを始めました。私は、女性利用者の怒鳴り声を聞いて現場に駆け付けました。ちょうどそのとき、男性利用者が女性利用者に一言決めゼリフを言いました。「おい、おめぇら、やっちまえ」
その利用者の後ろには最初から誰もいません。
哲学的な問答
難しいことを聞いて来る利用者もいます。「どうして日本の政治は良くならないんですか?」とか「悪い人が減らないのはなぜですか?」と聞かれます。私は、返答に困っています。
もっと哲学的な質問もありました。私がグループホームに泊っていたときのことです。ご飯の時間になっても起きて来ない人がいました。そこで、部屋まで様子を見に行くと、利用者は布団をかぶったままで言いました。「眠いです。どうして朝は来るんですか?」
ある女性利用者がグループホームのリビングで長い時間泣き続けていました。その横で寄り添っていた支援者が、頃合いを見てその女性利用者に聞きました。
支援者「どこか痛いの?」
利用者「痛いの」
支援者「そうか、痛いんだ、どこが痛いの」
利用者「こころ」
想像を超えた言葉に触れるとき
このやり取りを聞いて、その場では笑ってしまいました。しかし「こころが痛い」という一言に、言葉では簡単に言い表せない辛さや葛藤を抱えているということについて考えさせられました。
この仕事をしているといろいろな言葉、発言に出会います。それらは私の想像を超えた次元で発せられます。私たちは、表面通りに受け止めることなく、その言葉からいろいろな想像をふくらませていきます。