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心地良く通じる
「わかりましたか?」「ハイ」
このやりとりは、支援者と利用者の間でよくあるやりとりです。しかしこのあと、利用者が支援の指示と違う行動に出て注意されたり、不穏な雰囲気になることがあります。私たちは、コミュニケーションにおいて、言葉に頼りすぎる傾向があります。
私は、障がいのある人が利用する事業所を経営しています。私が、この仕事に就いたのは35年前です。そのころの福祉サービスは完全な上下関係、タテの関係でした。その後、2000年の社会福祉基礎構造改革において、ヨコの関係が定義づけられました。しかし、いまだタテの関係を維持しようとしている支援者はたくさんいます。その方が、支援者にとってはやりやすいようです。
タテの関係/言葉だけの指示
支援者は、言葉で強く言えば利用者に伝わると思っています。しかしこれは間違いです。冒頭のやり取りは、支援者が言葉で指示を出したあとに添えられる一言です。
利用者が「ハイ」と返事をしたあとに、利用者が支援者の指示と違うことをしてしまうことがあります。支援者の指示が利用者に伝わっていなかったということです。しかし支援者は、利用者がわかったと意思表示をしたことにこだわります。
心地良い体験から学び、通じ合う
障がいの有無に関わらず、私たちは、体験からものごとを学びます。この「わかりましたか?」、「ハイ」というやり取りは、幾多の体験の中から、「わかりましたか?」と言われたら「ハイ」と答えなければいけないと学習しているだけです。「わかりましたか?」と聞かれて「わかりません」と答えると支援者が怒るということを身につけています。
人に何かを伝えるとき、たいせつなことはお互いが通じているということです。通じるためには、日ごろから同じ方向を見たり、お互いの動きに関心を持ちます。通じ合うと心地よいです。その体験を積み重ねることで信頼感が生まれます。また、通じ合っている人と通じ合っていない人では、同じ言葉でも伝わり方が違います。
通じていないと…
以前、グループホームの支援者が、電車の遅延で勤務時間に間に合わないことがありました。そのとき、私が急遽、グループホームの応援に入りました。入居者の多くは、毎日の生活のためだいたいパターンができています。しかし、中には、声かけがないと行動できない人がいます。
私が、ある入居者に「お風呂に入りましょう」と声をかけました。しかし、体を硬直させてリビングから動こうとしません。「〇〇さん、お風呂入ろうよ」と、くだけた感じで話かけても動きません。また、声をかければかけるほど、利用者の体に力が入っていきました。
そこにホームの支援者が到着をして、一声かけました。「〇〇さん、遅くなってごめんねーお風呂はいろうかぁ」その一言で、その入居者は、スッーと一人でお風呂に行きました。私とは、通じていなかったのです。
私たちは、言葉に頼りすぎる傾向があります。言葉による関係が成立するのは、お互い通じ合い、心地良い体験を積み重ねてからです。