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日常における連携/衣服の調整を事例に考える
この時期は、利用者が着ている衣服への配慮が必要になります。利用者によっては、自分で衣服の調節ができない人がいます。そのときは、支援者が声をかけて服を脱いでもらいます。簡単な声かけです。しかし、この声かけは奥が深く難しい声かけです。
私は、障がいのある人が利用する社会福祉法人を経営しています。私の法人の事業所の中に、生活を支援するグループホームと日中活動を支援する事業所があります。利用者の中には、法人内のグループホームから法人内の日中活動に行く人がいます。その状況でのできごとです。
暑くても一枚余計に着ちゃう
梅雨前の気候は、衣服の選択に気をつけなければいけません。暑くても、習慣的に上に一枚羽織ってグループホームを出発してしまう利用者がいます。グループホームからは、送迎車で日中活動に行きます。
日中活動に送迎車が着くと、支援者が出迎えに出ます。そこで日中活動の支援者が厚着をしている利用者に一言声をかけます。
「暑いでしょう、一枚脱ぎなさい」
利用者もそう言われて一枚脱ぎます。対応をした日中活動の支援者は、グループホームの支援者に、もう少し季節にあった服を着るように連絡を入れます。
グループホームの朝
私の法人のグループホームにかぎらず、どこのグループホームも朝はたいへんです。グループホームによっては、支援者が朝食を作り、利用者の朝の身支度を整え、日中活動に送り出します。それを一人でこなします。
そのため、支援者はそのため前日の夜に着るものを用意することがあります。ただし、利用者は自分の着たい服に取り替えます。また、寝起きは支援者が用意した服を着ます。しかし、出発前に違う服に着替えます。完璧に整えるには限界があります。
障がいのある人の中には、予測することが苦手な人がいます。今日は、どれくらい暑くなるのか予想できません。また、自分の着たい服が鎧の役割を果たすことがあります。知らない外の世界で、自分の好きな服を着ていると安心できます。そのため、出発前にグループホームの支援者が着替えさせるのが困難です。
利用者の立場で考える
グループホームの支援者が、衣服に気を使っていないわけではありません。利用者本人を尊重している内に厚着のまま出発してしまうことがあります。そこに日中活動の支援者が連絡をすると、グループホームの支援者は出発間際に無理やり上着を脱がすかもしれません。また、利用者は無理に着替えさせられると送迎車の中で泣いたり興奮したりすることがあります。
利用者が日中活動に来たとき、日中活動の支援者が声をかけるとすぐに脱いだのは、利用者自身が外に出てすごしてみて「暑い」と感じたからかもしれません。声をかけるタイミングが重要です。
連携とは
私は、「連携」について支援者に話をするときにこの事例を出します。大きな問題が発生したときの連携はスムーズです。しかし、日常の連携は簡単なようで難しいものです。連携は、同じ目的にむかって一緒に働くことです。しかし、それぞれの価値観が優先されます。
この衣服の支援で重要なことは、厚着している利用者の服を誰が脱がすかではありません。どうしたら、利用者が否定されることなく、自分から脱いだ方がいいかなぁ…と思えることです。
利用者が厚着をしてグループホームを出てしまった場合、グループホームの支援者から日中活動に電話をします。そこで、頃合いを見て衣服の調整をしてもらうようにお願いをします。これで連携が成立します。