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一本の桜、最後の桜

桜の季節になると思い出すことがあります。

私がまだ支援の現場にいたころのことです。毎年、桜が咲くとみんなでお弁当を作って、近くの柏尾川にお花見に行きました。下の写真は20年前の柏尾川沿いの桜です。この桜の下でお花見をしていました。

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自然体なじいちゃんとの出会い

私は、障がいのある人が利用する社会福祉法人を経営しています。今は、理事長です。写真のころはまだ現場の支援者でした。そのころ、利用者の一人に70代後半で、一人暮らしをしているおじいちゃんがいました。そのおじいちゃんには軽度の知的障がいがありました。またそのおじいちゃんは、超自然体のおじいちゃんでした

そのおじいちゃんは、日が昇ると活動を始め、日が沈むと一日の活動を終えました。また、花が大好きで、いつも部屋の中に花を飾っていました。最初のころは、道端に咲いている花を取って来ては花瓶に入れていました。しかし、枯れても放置しておくので、ホームヘルパーさんからは不評でした。

やがて、近所に100円ショップができると、造花をたくさん買うようになりました。私には「これ枯れなくていいんだぁ」と教えてくれました。花好きのおじいちゃんです。桜が咲くとうずうずしてより活動的になりまました。しかし、晩年は、外に出るときは車いすになり辛そうでした。

お花見

ある春の日、事業所では、いつものようにちらし寿司を作って、お花見に出かけました。ちらし寿司は、大きなペットボトルに酢めし、具材、酢めし、具材という順に詰めて押し寿司にするのが定番でした。

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そろそろ事業所に戻ろうかという時間になったとき、おじいちゃんが、もっと先にきれいな桜があるからそっちへ行こうと言い出しました。しかし、戻らなければいけない時間でした。利用者によっては、家族が迎えに来ます。そこで私が、そのおじいちゃんの車いすを押して遠くの桜を見に行くことになりました。

一本の桜、最後の桜

二人でひたすら、川沿い、桜沿いを歩きました。おじいちゃんに言われるままどこまでも歩きました。やがて舗装された道がなくなり、砂利道になりました。そこで、車いすがパンクしました。それでもおじいちゃんはあきらめませんでした。突然、車いすから立ち上がり歩き始めました。それはまるでハイジに出て来るクララのようでした。それからしばらく行くと、なにもない土手に一本だけ桜の木がありました

そのあと、おじいちゃんはパンクした車いすに座りしばらく桜を眺めていました。まだ携帯電話のないころです。私は、迎えに来てもらうために公衆電話を探して歩き回りました。私たちは隣の区まで来ていました。

桜を見ているとき、おじいちゃんが言いました。「髙橋、きれいだろぅ」

その一言は、今でも忘れません。また、それがおじいちゃんにとって最後の桜になりました。

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