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忘れられない、夏の失敗
忘れられない、忘れてはいけない失敗があります。
私は福祉の専門学校を卒業して、小規模作業所の職員として雇用されました。当時、その作業所では障がいがある人と一緒に無農薬の野菜を作っていました。専門学校を卒業したばかりの私は誰よりも下っ端で、利用者の皆さんから農作業のイロハを教わっていました。
私がその作業所で正規職員としてお世話になるのと入れ替わりに、一人の女性利用者がその作業所を退所して一般企業に就職をしました。私は、就職前からその作業所でアルバイトをしていたので、その女性とも面識がありました。
その年の夏のことでした。その女性から電話がありました。就労先でパートの方から怒られてばかりで辛いというのです。電話では会話がうまくできなかったので会ってお茶でも飲みながら話を聴くと約束をしました。
約束の日、約束の時間に彼女は作業所に顔を出しました。私はまだ畑の水まきが残っていたのでしばらく彼女に待っていてもらいました。
水まきを終えて、作業室で待たせていた彼女に声をかけました。
「待たせてごめんね」
「お茶、何、飲む?アイスコーヒーでいい?」
彼女はうつむいて返事をしません。私は、仕事で嫌な思いをしているんだろうと勝手に思い込み、彼女の前にアイスコーヒーを差し出しながら座りました。なかなか彼女はしゃべってくれません。しばらく沈黙が続いたあと、彼女は言いました。
「お茶飲みながら話しようって言ったじゃん」
その時、自分が犯したあやまちに気がつきました。
私は彼女を利用者の一人としてみていたのです。狭いところだったのでその部屋には他の支援者もいました。その人たちに聞かれたくない話があったかもしれません。彼女は仕事が終わったあと、どこか別の場所でお茶を飲みながら話をする予定でいました。私は、お茶でも飲みながら話そうと、電話でやくそくをしました。
私たちは、相手をサービスの対象者として理解するのではなく、一人の人として理解しなければいけません。
たぶん、この仕事に就いて一番最初の大きな失敗だったと思います。暑い夏の夕方になると思い出します。