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模造紙いっぱいの楽しさ
障がいのある人たち利用する事業所を経営しています。その事業所の活動の一つに絵を描くプログラムがあります。それは、ときどき利用者の工賃収入になります。しかし、多くの場合は地域の交流事業や啓発活動での活躍です。その絵は、魅力的な絵ばかりです。私は、その絵のとりこです。
障がいのある人とのかかわりの中で、私に大きな影響を与えたできごとがあります。
「え」を描く
私は、福祉系の専門学校を卒業した後、地元にある小規模作業所の職員になりました。そこに就職をしてすぐ、利用者と絵を描くプログラムを任されました。そのときのことです。私は、ある利用者に絵を描いてください、とお願いをしたところ、その利用者は、紙に「え」と描きました。その頃の私は、そこから先に進まず、もうそれだけでパニックでした。
「きんぎょ!」
「え」からしばらくしてのことです。私が、訓練会(※)でボランティアをしていたときのことです。ある男の子が、赤い折り紙をちぎって、グチャグチャと丸めて、水色の折り紙の上に載せて、言いました。
「きんぎょ!」
そのときの感動は今でも忘れません。
※訓練会:障がいのあるお子さんがご家族と一緒に自主的に活動するサークル
模造紙いっぱいの顔
私が、今の法人の前身となる事業所に就職してすぐのことです。地域のイベントに展示するために、模造紙に寄せ書き絵を描くことになりました。私が、模造紙を広げてちょっと目を離した隙のことです。ある男性利用者が模造紙いっぱいに顔を描きました。それは、模造紙一面の大きな大きな顔でした。人に見せる絵を描くというのは勇気がいります。良く見せよう、上手に描こうと無駄な努力ばかりします。その結果、描けずに固まります。しかし彼は、ためらいなく一気に描き上げました。残念ながらそのときの絵は残っていません。この下に紹介する絵は、その彼が描いてくれた絵です。
しかし最近の彼は、本を見ながらその文字を模写することに夢中です。それはまるで写経のようです。いつも心おだやかな彼は、私の30年らいの大切な仲間です。