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失敗から立ち直る力を身につける権利
障がいのある方の支援をしています。もう30年以上も経ってしまいました。何年続けていても、ついおろそかになってしまうことがあります。大事なことを忘れないためにここに書き留めます。
私が経営している社会福祉法人は社会福祉法人の中でも小さな社会福祉法人です。制度が変わる前は「小規模法人」と言われていました。もっとさかのぼると始まりは障がいのある方のご家族が自主的に始めた「地域作業所」でした。横浜には地域作業所が一時は300ヶ所以上ありました。それが統合を繰り返し、形態を変えて現在に至っています。
まだ地域作業所だったころ、障がいのある方10名に対して支援者(当時は指導員)は常勤2名、非常勤1名が一般的でした。そこでそれぞれの作業所独自のプログラムを展開していました。私の作業所では、外で缶つぶしをして、室内で楮を使った紙漉きをしていました。小規模の良さはこじんまりしていて、細かいところに目が届くことです。反対に欠点は活動内容に限界があることと、細かいことまで気になってしまうことでした。
利用者は養護学校を卒業したばかり若い人がたくさんいます。年月とともにできることが増え、やりたいことも広範囲になっていきます。しかし、支援者が少ないためその成長に支援者が追いつきません。
その頃に感じたことは、利用者の限界を決めてしまっているのは支援者ではないかということです。支援者が対応できることは利用者もできる、でも反対に支援者ができないこと、知らないことは利用者はチャレンジする前からできないことになっているということです。
その頃は、障がいのある方が自分で自分の活動を選択するという価値観がない時代でした。また、実際の社会資源も不足していました。障がいのある方がどこかの事業所(施設や地域作業所)に決まればそれで完了でした。
それから20年が過ぎました。障がいのある方が活躍できる場所はたくさん増えました。制度も整いました。支援とは意思決定支援だということも明文化されました。当時は行政措置、今は個人契約のです。充実した時代になりました。でも本当に選べる時代は、まだ来ていません。パターナリズム(温情父権主義)的な意識が抜けないところがあります。
アドラー心理学を基本とする子育てにおける親の育成プログラム、パセージでは、体験から学ぶという項目があり、その中に「危険のワクチン」という言葉が出てきます。少々の危険は体験した方が良いというのです。
何かする前から、無理、と決めつけないことが大切です。新しいことにチャレンジする権利は誰にもあり、かつ失敗から立ち直る力を身につける権利も平等に持っているのです。