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ベテランの危険性と可能性
ベテランには、その都度の適切な対応が求められます。働いている人たちを見ると、上手にテキパキと対処しているベテランがいます。しかし、その対処が自分の経験で培ったものだけになると危険が生じることがあります。それが、対人援助職の特徴の一つかもしれません。
私は、障がいのある人が利用する社会福祉法人を経営しています。先日、高齢福祉サービスを提供している社会福祉法人が、障害福祉サービス事業を始めるということで、お話をうかがいに行って来ました。
障害福祉サービス分野、特に障がいのある人たちが共同生活を行うグループホームでは、利用者の高齢化が深刻な問題になっています。例えば、グループホームの2階に住んでいる人が、加齢に伴い一人で2階への上り下りが困難になってきたということです。
福祉サービスを提供していくうえで大切にしたいことは、いつまでも住み慣れた町で暮らす、ということです。これは誰しもが願うことだと思います。しかし、それがうまくいきません。
高齢福祉サービスと障害福祉サービスの連携
今の福祉サービスの現状は、障害福祉サービスと高齢福祉サービスが別々で連携ができていません。市町村によっては、障害福祉サービスを使っている人が65歳になると、高齢福祉サービス(介護保険)に移行するよう強くすすめられます。障害福祉サービス、高齢福祉サービス、どちらのサービスが自分に合っているのか、選択をする余地がないという事例がたくさん報告されています。
また、選択できる状況にあっても、私たち障害福祉サービスを行っている事業者は、高齢福祉サービスについての知識が不十分です。そのため、障害福祉サービスの方が良いという前提で話をすすめる傾向があります。結局、利用者本人は選ぶことができないのが現状です。
年齢にあった快適な暮らしを探す
たとえば、グループホームで生活をする方が高齢になるにつれ、一緒に生活をする30代、40代の利用者と生活習慣が合わなくなってくることがあります。しかし、私たち支援者は、高齢福祉サービスの知識や技術がないがゆえ「問題がなければこのままホームにいて良いですよ」と説明をします。それで利用者も家族も安心します。
確かに、それで問題はないかもしれません。しかし、不便を感じることがあるかもしれません。そこに気が回っていません。もしかしたら、同世代のお年寄り一緒に暮らす場所、そういうグルーープホームが町なかにあったら快適かもしれません。
ベテランが持つ危険性
今の福祉サービスでは、障害福祉サービスから高齢福祉サービスへの流れがスムーズではありません。それが、高齢者福祉サービスを主に事業を行っていた社会福祉法人が障害福祉サービスを始めることで、その流れがスムーズになるかもしれません。協力を申し出たところです。
私は、障害福祉分野で30年以上、働いてきました。まわりから見ればベテランです。30年間にいろいろな場面に直面し対応をしてきました。おかげでいろいろな対応方法を持っています。しかし、それらはあくまでも自分が経験してきた利用者の状況にあてはめているだけです。また、ベテランは、今までの経験に基づいていくらでもしゃべれます。聞いている人はそれがもっともだと思います。それがベテランが持つ危険性です。
利用者によってはもっと別な方法が良いことがあります。ベテランだからこそ常に新しい方法に目を向ける余裕を持っていたいと思います。今回、高齢福祉分野の人たちと協働できるということは新しい方法を学べるチャンスです。