見出し画像

逃げることは自分で決心して立ち向かうためのワンステップだ(教える技術 3回目より②)

01月09日(木)から早稲田大学のエクステンションセンター中野校で向後千春先生の「教える技術」が始まりました。今回もそこで学んだことを障がいのある方への支援場面で活用すること、また支援者の働き方改革への活かし方考えて書いていきます。

3回目は、態度技能の教え方でした。講義では、前回の講義についての質問に答えたあと、OECDが報告した21世紀スキルについて説明があり、その後、社会・情動的スキルのトレーニングについてグループワークを行いました。ワークの発表で、あるグループから、社会・情動的スキルのトレーニングとして「逃げる」という提案がありました。

私は障がいのある人の支援活動は、ご本人が心からここに行きたい、ここに住みたいと思える場所でなければいけない、と言い続けています。なぜなら、障がいのある人の中には、逃げることが苦手な人が多いからです。

社会・情動的スキルは、意志力や他者と協働する力、自分の感情を調整したりする力です。障がいのある人が、社会的でない、もしくは大きく感情的な行動に出ると「パニック」や「問題行動」と呼んだり、それを課題として指摘することがあります。しかし、その行動になる前に何らかのメッセージがあります。その一つが「逃げる」という行為です。しかし、その「逃げる」ということが問題になり矯正させられることがあります。その事例を紹介します。

ある利用者のケース会議に呼ばれました。私は、そのとき配られた支援計画書に書かれた支援内容に驚き、会議の最中、どうやって反撃するかそればかりを考えていました。

支援計画書には、ある利用者が、グループホームを出たあとまっすぐに日中活動に行かず、駅のバスターミナルのベンチで座ったまま、バスが来ても乗らずにしばらくそこに座っている、本人に理由を聞いても何も答えない。それに対して、ご本人と朝はまっすぐに事業所に行くように約束をした、と書いてありました。この件は、ボランティアがバスターミナルに座っている利用者を何回も見かけ、事業所に報告したことで発覚しました。

私には、なぜ朝はまっすぐに事業所に行かなければいけないのかわかりません。事業所に聞くと、ギリギリだが遅刻はしていない、もうすこしゆとりをもって事業所に来て欲しいと言います。それ以上に深く質問をすると、他の利用者さんはだいたい10分ぐらい前に来て自分の席に座っています、と言われました。私にはその目的が全く理解できません。さらに支援計画書に「約束」と書かれています。しかしそれは「約束」ではなく「命令」です。支援場面において支援者が一方的に「わかった、いい、約束ね」と言っている場面を目にします。約束であるならば本人に拒否権がなければいけません。この場面において利用者に拒否権はありません。

このケース会議においては、本題は別のことにあり、かつご家族も朝はまっすぐに事業所に行うことを望んでいると言われ、これ以上、深く話を進めることができませんでした。

この利用者は、対人関係で課題を抱えていました。新しく利用を始めた、元気の良い人が苦手だったようです。朝になったらグループホームを出て日中活動に行かなければいけない、それはわかっている、でも行きたくない、そう思っている内にバスが一台、二台と過ぎって行ってしまった、それでも決心してバスに乗って来た、そんな状況ではないでしょうか。

私も、以前は「集団行動なんだからそれぐらいがまんしなさい」そんなことを言っていました。きっと逃げることができず、つらい思いをさせてしまったことと思います。

障がいのある人は、支援者によってささいな逃げ場を失ってしまうことがあります。しかし本人にとってその逃げは、決心して自分の力で立ち向かうためのワンステップかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?