「ご感想への返信2023」No.08
講義でEテレ「理想的本箱」(【同性を好きになった時に読む本】の回)の録画を流した。文中に「カミングアウト・レターズ」の中でとあるのは、書籍のことか映像の方か今になって判然としないけれども、質疑応答時のそんなやり取りは、確かにあったと覚えています。ありがとうございました。
いや、この一文がとてもいいですね。感じ入ってます。カミングアウトは「対話」です。そこには分かりやすい要請があり対応があるとされていて、極端にはその「結果」のみが取り沙汰されることが多いのですが、本を編纂する日々で感じていたのは「それは何よりもまず親密な対話である」ということでした。「これも家族のワークだった」という、その発見から目が離せなかった。優しくて息苦しい、濃密なドラマがありました。
誰しもそうなのかもしれない。親の期待に背くと分かっていながら、話さざるを得ないこともある。そうした体験を痛みと共に記憶する、人生はそういうものでもあって。ある決意をもって実家に帰る、親はまだ何も知らない、何も予測していない、食卓には自分の好物が並べられている。その苦しさ、いたたまれなさ。人はそういうものを知っていく。
しかし、それはやっぱり、同時に大切な家族の時間であったりもするのです。渦中にある時にはとてもそこに目が行く余裕がないかもしれない。しかし振り返りつつ綴る手紙には、その大変な瞬間にも相互的に行き来する思いやりや、喜びさえ見とめられる。カミングアウトのそういう面を見逃すのはもったいないな、と思います。でも、あなたは見逃さないかもしれません。
誰かからのカミングアウトに、何が起きているか分からず、不安が押し寄せるかもしれない。「見慣れた日常が崩れ、二度と元の暮らしに戻れないような不安だった」と語る人もいます。しかしあなたとその人は、「S.O.S.かどうか確認したら」お互いのポテンシャルを喜び合ってもいいのです。もちろん、いくら泣いても構わない。――ただ、かつてその瞬間には絶望していた大勢の人々が、日常を取り戻して来た。危機的状況を乗り越えて、何なら以前より強く結びついて。
もちろん誰もが同じ結果を迎えられるとは限らない。ただそういうことがあると、日常はいつか戻るかもしれないと知った上で人生に臨めるならば、景色はまたちがうと思うんですね。一歩踏み出すことなら、試してみるかもしれない。
皆さんはきっと、沢山の打ちひしがれた人々に出会います。明日などないように今感じている人々の最も近くにいるのが皆さんです。だからこそ、沢山の脆さと沢山の強靭さを、沢山の絶望と沢山の希望を知り、……今はまだ二度と立ち上がれないと感じている人たちを助けて下さい。その仕事を選んだ皆さんを、誇りに思っています。
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