見出し画像

君はそんな雨を見たことあんのかなって

 神経すり減る系を含めた案件をいくつも抱えていて、ゾンビみたいになっている。悲しいけど、これ、あとひと月続くのよね。そうだ先輩と酒でも飲むか。先輩もおれに会いたいでしょうそうでしょう。(日記、2024/11/21)

「飲み行きます? ムリだったらいいので!」――さて送信。
先輩はもうちょっとおれの感情に気を使えばいいと思うの。でも寄りかからせないのが先輩。

待ち合わせ場所に向かう電車内でもう、愚痴タイムが始まる。

そんな・たましいの・さけび。

人生ドラマじゃない。分かってる。でも「なんで?」とは思う。

ドラマに憧れるモブ共はスキンケア始めるんだよ。それがモブたる所以。セリフを鍛えろセリフを

さあ先輩、キメて下さいよね。おれはトスを上げられる後輩。

まー先輩の人生はドラマだわな。河原でよりそう二人の影を撮ったりな。荒川でな。

しかし突然、マジでドラマは始まる。それが東京の電車。

おっさん(見なしヘテロ)がおっさん(確定ゲイ)の肩にもたれた!
耳元で「寝てるときは、かわいいんだな」とか囁いてやろうか。飛び起きんべな。

 あ乗り換えだ。頭どかせよオラ。ジャマなんだよ。二度とすんなよコラ。優しくしちゃうだろーが。けっ。ペッ。お疲れッス寝過ごさないでね。


Bar @江古田 

 実は今回、「ゲイバー行ってみる?」とお上りさんみたいなことを言っていたのだが、ゲイタウンから遠ざかって長いので、もうなんというかどうしていいか分からない。確か32歳か33歳くらいから行ってない。ヘテロ向けの会話濃そうな飲み屋も苦手だし、結局ヘテロばかりのショットバーあたりが面倒がなくていいのだ。で先輩にゴネて、「江古田でよくねえか」になる。古い洋楽のMVをボンヤリ見ながら、先輩とジントニック飲んでるのはとても楽だ。――もちろん時々、感傷的にはなるんだけど。

 ああ、子どもの頃に何かのCMで使われてて、意味も分からず好きだったなあと思い出す。そう爆弾は晴れた日に落とすのだ。ベトナム、ナパーム弾……あの日のヒロシマも快晴だったんだ。こんなにシビアな歌だったんだなあ、と思う。おれ頑張ってねえな。胸がザワつく。いつも閑古鳥なのに珍しく賑やかな店内には若い人たちがいて、演出家なんですとか役者でみたいな会話をしてる。おれもそっち行きたかったな。胸がザワつく……
 ジュークボックスに「紅い花」とかあります? ちあきなおみの。あるわけねえか、

 ……そういやあのおっちゃん、隣でもたれかかれて分かるくらい、何か臭ってたな。汗でも男の脂でもない、加齢臭ともちがう、強くて苦くて、あえて言えばホコリのような、あれは クリキ ノキ さんが言ってた「ストレス臭」かもしれない。自分の襟をはだけたワイシャツに、すくめた首を入れて確認する。おれは大丈夫……かな? まあ大丈夫じゃなくても明日は来る。

 人生はドラマじゃない、のかもしれない。ピンスポットはいつもちょっとズレてる。BGM はない。観客は見えない。だから、肩にアタマ乗せるくらいは、いいよって言いたくなる。あの人にも愛情の記憶があって、少なくとも身体はそれを覚えてて、寝ながら探してる。ねえジュークボックスに「狼になりたい」ってあります? 中島みゆきの。だからあるわけねえって。


いいなと思ったら応援しよう!