【伊勢をたずねて390km】伊勢市クリエイターズ・ワーケーション:06日目『カミサマとの遭遇』
伊勢湾沿岸地域で過ごしてみて6日が経過。
やたらに海岸付近をウロウロしているせいもあると思うけど、気がつくと潮風でメガネレンズが塩田になっている。
これはこれは新鮮な現象と感覚!
(と、思ったけど、単に砂?やっぱ塩??)
長野に帰ったらクルマも洗車しよう。
そうしよう。
まだ付き合う前だったころにパートナーが言った。
「出かけた先でなんか、印象的なヘンな人に出会ってさ、ぜんぜん知らない人なんだけど話したりするときあるじゃん? あれって、人間の姿になって何かを伝えに来たカミサマなんだと思ってる」
とてもおもしろい解釈だと思った。
なんだか妙に腑に落ちた。
そういうことって、ある。
その後にパートナーと遊びに出かけたときのこと。
長野のとある集落にあった誰もいない小さな神社で、知らないおじさんから木彫りの犬のストラップをもらったことがあって。
あれはやっぱり人間の姿になって会いに来たカミサマなんじゃないかと、僕もそういうふうに考えて納得した。
しばらくしてストラップはどこかに無くしてしまった。
そういうことも、ある。
そして、きょう。
2020年12月14日のこと。
旅の着替えを洗濯するためコインランドリーに行った。
いまは妻であり、アーティスト仲間でもあるパートナーも一緒に。
洗濯物のポケットと機械の操作手順をひととおり確認し、コインを投入。
店内のソファーに腰をおろした。
ひと息ついて僕らは、ラックにあった地元情報誌とスマートフォンをそれぞれ駆使して夕食の店を探し始めた。
ひとりの中年女性が大きなビニール袋を抱えてランドリーに入ってきた。
反射的にそちらに意識が向く。
洗濯の操作を済ませた中年女性はこちらを振り返って何か言葉を発した。
だが、聞き取れない。
中年女性は完全にこちらを向き、こんどは僕のかたわらにあったボストンバッグを指さして言葉を発した。
どうしても聞き取れず、何か返そうにも喉から音が出ない。
あきらかに緊張した様子の僕らを見て、中年女性は少し申し訳なさそうな目をした。
そこから時間が、数分か数十分か、飛んでしまったんだと思う。
次の瞬間には、僕らが長野から来て伊勢に滞在していること、ドライブがてらに宿から少し離れたこのコインランドリーに来たこと、34歳と32歳のアーティスト夫婦だということ、などが共有されていた。
デフォルメされたアザラシ柄の、ゆったりしたシャツを着た中年女性。
首には中日ドラゴンズの、くたびれたスポーツタオルを巻いている。
最初、言葉が聞き取れなかったのは強い高知訛りのせいだった。
きっと話好きの性分なのだろう。
僕らは洗濯と乾燥が終わるまでの時間、女性が歩んできた半生を真正面で耳にすることとになった。
馴染みのないイントネーションを早口に、一生懸命よりそって。
若い頃からそう若くない頃まで接客を伴う飲食店で働き、店のオーナーや、時には恋仲になった男たちに酷い目に遭わされた。
お金にもとても苦労し、友の裏切りも経験したという。
わたしだって本当は子どもが欲しかった、と。
いろいろあって伊勢に流れ着いたいま現在は、温和な彼氏と同棲し、決して楽ではないが穏やかに暮らしているという。
国道沿いにあるあそこのラーメン屋で食事をすることと、入浴料のあの安い銭湯でお湯に浸かることと、下積みを経て表舞台に立ってきた昔の歌手の生きざまが好きだ、と。
ひととおり吐き出し終えた中年女性は、ちょうど乾燥が終わった洗濯物を満足そうにたたみ、もとの大きなビニール袋に詰め込んだ。
若いふたりにいろいろ話したくなった、なんだかうるさくてごめんな、交通事故には本当に気をつけてな、と3度繰り返してコインランドリーを出て行った。
残された僕らの心には、どういうわけか満足感のような感情があった。
宿までの道のりは中年女性に言われた通り、いつも以上に気をつけてクルマを運転して帰った。
パートナーとふたり、同じことを感じていた。
あの人もきっと、人間の姿になって大切なことを伝えに来たカミサマだよね。
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