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映画『葛城事件』から読み解く、Vision of Fatima 星拳五の狂気

前回の映画『ジョーカー』についての記事、読んで頂いた方ほんとにありがとうございます。


すいません。映画の感想を書くだけじゃ満たされなくなってしまいました。

今回は、同世代かつ同じエクストリームミュージックのボーカリストとして付き合いの長い、Vision of Fatimaのボーカリスト星拳五とお酒を飲みながら映画の話をした内容を記事に書き起こしてます。

きっかけとしては、以前から彼との会話で彼自身のパーソナルな問題と好みの映画に共通項を感じる事が多く、僕のメインテーマ"映画と音楽の橋渡し"に1番フィットする存在だなと感じていた事です。お酒が入ってるので僕が喋りすぎていますが笑 彼の世界観にもだいぶ踏み込んだ内容になってます。

お楽しみください。

太字:Ryoichi    細字:星 拳五

R:今日はありがとう。端的に、拳五ちゃんと話してると拳五ちゃんの琴線に触れるような映画って家族とか親がテーマになってるものが多いなって個人的に思ってて。俺の中で拳五ちゃんへの興味の決定打になったのが今回話す映画「葛城事件」の感想なんだよね。この映画のキツさが分かる男、めっちゃシンパシーを感じる。葛城事件の率直な感想教えて!


星:父親の質ってこの映画においてかなり重要な要素やんか?やっぱり映画内で1番問題があるとされてる父親が持ってる"毒"みたいなのが家族全体に広がっていく話やから。でもそれでいてここで描かれてる父親ってよくいる”オヤジ”というか。特別な話じゃないから逃げ場がなくてほんまキツいって思ったな。


R:超典型的な団塊世代のうぜえオヤジイズムだよね。これは俺の個人的な話なんだけど、俺自身の父親も家族を狂わせるような要因を持った人で、10代の頃なんか大嫌いだったんだけど、ある日当時付き合ってた彼女にとってしまった言動とか行動が、父親が母親にしてたのと全く同じだった事に気がついて。その時その彼女の前で号泣したんだけどさ(笑)


星:つらい。


R:この映画でも一番憎み合ってる父親と二男の行動と言動が同じだったり似通ってるって示唆するシーンが結構あるじゃん。


星:みんなで飲むであろう牛乳パックそのまま口付けて飲むとか、嫌なこと言うとき敬語になったりとかな。めっちゃ嫌やなあれ。


R:そういうのがあって、よりこの映画に思い入れるというか、個人的な切り口でもだし、さっき拳五ちゃんが言ってたように、語ってる内容の本質的な部分は誰にでも起こりうる事だから、食らっちゃうよね。拳五ちゃんは逆にこの映画は個人的なものに落とし込んだりする感じではなかった?


星:俺も父親に対する感情含めてRyoichiと一緒で、どんなに抗おうにも血がそうさせてるって言い方もあれやけどそうだし、何より幼少期に確実にその親に教育されてるわけだから知らん間にそっちの磁場に引っ張られてしまう怖さ、それがふとした時に出てくる怖さってほんとにきついなと。


R:なるほどねー。ちょっと話が飛躍しちゃうんだけど、こういう現実のキツさとかエグさが共有できる拳五ちゃんだから、実際にフロントマンとして表現してる”狂気”みたいなのものも、個人的には人間味を感じるというか。Vision of  Fatimaの音楽性自体、俺は昔から「リフはカオティックだけどリズムワークは整合性あってむしろキャッチー」みたいなこと勝手に言ってるのもあるんだけど(笑)そこんところはどうなのかな?

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星:割とその解釈に近いと思ってくれていいと思う。俺バンドする前はずっと絵を描いてて、そこで家庭内のフラストレーションみたいなものを発散してる時期があって。ほんでバンド始めたらそういう絵が描けなくなったんよ。多分そういうコンセプトはバンドに自然と移行していったんだと思う。もっと具体的に話すと、父親みたいにはなりたくない、というか反面教師として”同時代的に正しい人間らしくあろう”とか”まともに生きよう”って強い信念を持って生きてきたつもりやったけど、正しくあろうとしすぎた反動みたいなものを食らうことが多くて、それを解消したくて、歌詞も含めてそういうのが多いな。"自分が自分としてまともでいるために、何を諦めて、何を捨てるか”って話をメインテーマに置きがちかな。


R:なるほど、めっちゃ一本筋通ってるなー!あとすげー野暮なこと聞いちゃっていい?(笑)最近拳五ちゃんライブ始める前に普通に関西弁で軽く自己紹介するじゃん?前はやってなかったと思うし、ああいうの、うまく言えないんだけどなんかすげえ好きでさ。


星:あれは確かに意識的にやり始めたことやね(笑)俺は別に狂人ではない、というか。俺の普通、此処に在り感というか。それを踏まえてもらったうえで観客にはカオスに浸ってほしいって感じやな。正気があって狂気がある。成立する。


R:最高の答えが返ってきてわが意を得たりって感じだわ。拳五ちゃんがここまで話してくれてるから、俺も映画から線引きすると、昔は俺もっとやけくそで普通にタチが悪かったんだけど、上京したくらいから感覚が変わって。このきつくてえぐい現実をみんな背負いながら生きてて、だからこそポジティブな瞬間、俺らで言うとこのライブとか表現活動の尊さが際立つなって。この映画でも、めっちゃきついんだけど客観的な視点から見ると、マヌケだったり笑えるシーンたくさんあるじゃん。


星:二男が父親と直接会話したくないから紙に書いて伝えようとしてるシーンとか。それにキレる父親に母親のフォローが「最近声優目指してて、のど大事にしてるみたいで・・・」って(笑)なんやねんその言い訳、みたいな。


R:そう。あと、中華料理屋の名シーンな。超絶修羅場なんだけど、やっぱ笑える。要はこういう瞬間に人生の救いってあるなって思うんだよね。みんなマヌケで、だけど一生懸命こうするしかないって思って生きてて、だからこそこの映画の結末はきついんだけど、逆にもっと肩の力抜いたら生き地獄は減るなって。俺がフロントマンとしてがむしゃらにやって持ち込みたいのはそういう想い。ライブでフラットに気持ちが発散出来てるのも、あー表現するのっていいなって感覚。


星:ええなあ。Ryoichiはやっぱピースな感じが最近はずっとあるもんな。こういう話、ほんとは毎ライブ打ち上げとかで話せるのがええんやけどな・・・。なかなかそうもいかん。


R:あとさ、この映画の話ってバンド内関係性問題にも当てはめることができる気がするんだよね。バンドって共有する時間の質的にも量的にも友達を超えて一番「家族」に近い関係性になるわけだしさ。


星:うわ。今何人か頭に思い浮かぶバンドやら人物がおるわ(笑)確かになー。こういうのおもろいな。


R:各自が自分のコミュニティーに当てはめられるだろうね。話戻しちゃうんだけどさ、事前に拳五ちゃんに「葛城事件」以外で刺さった映画聞いたじゃん?その時塚本晋也監督の「野火」を挙げてくれたと思うんだけど、さっき拳五ちゃんがメインテーマって事で"自分がまともでいるために、何を諦めて、何を捨てるか"って話してくれた時、これめっちゃ「野火」っぽくね?って思ってビビったんだよね。ここにも繋がる?って。


星:俺も今回のためにこの2作見直したんやけど、自分でも気がつかん間に一本線が繋がってしまったなって気づかされた。そんなに塚本晋也作品見てるわけじゃないけども、特にこの野火の没入感はすごくて。個人的には映画ってそうやって没入して見るものやと思ってるから、疲れるしそんなRyoichiみたいに本数見れないんやけどね。人が壊れていく描写って色々あるとは思うけど、一個一個段階を踏んで、丁寧に壊れていく感じがすごいよかったな。説得力も感じるし。塚本晋也が演じてた役が終盤、自分の損壊した肉塊を何の躊躇もなく食べた瞬間とか「ああ、そこももう壊れてるんや」って。もはやちょっとファニーではあるけどかなりずっしりきたわ。


R:いや、そういう体験性ごと投げかけてくるような映画ってその時点でいい映画だし、それをしっかり選べてる拳五ちゃんって事よ。素晴らしく誠実な映画の見方でもあると思うし。個人的にマジで拳五ちゃんが言ってた事って塚本晋也作品とのフィット感すごいあるよ。それこそ代表作の「鉄男」から一本繋がってる作家性というか。”体も心も変わっていくなかで、最後の最後に残った人間性みたいな線を越える瞬間”みたいな。逆に”何をもって人間は人間たると言えるのか”みたいな。

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星:そうね。野火の場合は最後「もう一線越えててこの人は戻ってこれない」ってとこまでちゃんと描写してくれてるし。


R:そう。鉄男だったら逆に人間の一線を越えて”ヒャッハーーー”なモードに入る快楽って感じかな(笑)


星:特に意識的に考えたことなかったけど、Ryoichiに線引きしてもらって一本線で自分と繋がっていく感じがして色々と合点がいった。とにかく野火に関しては強い体験性と没入感。あと自修のくせに死体の作り方うますぎる。映像の感じも映画見てる感じがせえへんし。


R:多分デジタルカメラの映像だよね。生々しすぎて、記録映像っぽさすらない。これこそ映画館で観たかったんだけど公開館数少なくてなんやかんやしてたら見れなかったんだよなー。あと「インサイドヘッド」にハマりすぎてた(笑)


星:出た(笑)でも正直な話、Ryoichiはインサイドヘッドの感想をSNSに上げ始めたくらいから文章がおもろなったなって思ってたで。俺も見てるけど、やっぱこれはRyoichiの中でデカいん?


R:さっき話してた事と被っちゃうんだけど、今の自分になるために嫌なことも含めてほんと色んな事を経験して、それでやっと”現在の俺”なんだなーって。最後のオチでさらに「君だけじゃなくてみんなそうなんだよ」って俯瞰する視点を入れて”全部、みんな愛おしい!”って。これを子供向け映画で分からせるようにやってしまうピクサーかっこよすぎるんだよね。


星:今のRyoichiっぽくて好き。めちゃくちゃ価値あるポジティブよね。さっきは俺に聞いてくれたけど、逆に俺より映画見てるRyoichiが映画と自分の音楽活動で絡めたい、みたいなのってあったりするん?


R:インサイドヘッドを見た時にハッキリ”こういう世界観を提供できるパーソナリティーになりてえ”とは思ったね。あとはもう「ロッキー」かな。俺、結局話してると全部ロッキーに集約する癖があるから。とにかく「ロッキー」見てない人は見て?それ俺だから。って感じ(笑)


星:そうなんや(笑)やっぱ個人的にボーカルの人に対して、音楽的なルーツもさることながら、それ以外の部分のルーツって世代感も含めて結構重要だったりすると思うし、なんなら俺自身そこがめっちゃ気になるからもっとこういう話していきたいな。今回誘ってくれてうれしかったわ。


R:個人的にはEarthists.のYUIの話聞きたいんだよね。前3人で高円寺で飲んだ時のこと覚えてる?あの時「CASSHERN」の話であいつと大揉めしたのやばすぎたよね。キャシャーンの映画が好きすぎてあんなに怒ってる人、初めて見たから(笑)書き起こしたら絶対面白い。


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星:かなり偏ってておもろかったな(笑)じゃあ次回はそれやな。









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