『でたらめの科学 サイコロから量子コンピューターまで』勝田敏彦
朝日新聞の記者さんが、いかにも記者らしく大学教授や市井の人にインタビューしてまとめた科学紹介本。なにしろ製品開発でお世話になっている技術そのものの話なので「ちょっと薄いな」と感じたり「あれ? 本当にそう?」と気になったり。しかしよくまとまっているし、読者にあわせてレベル調整されている印象。
最後の量子コンピューターのあたりで(前の方で読んだ)話が繰りかえしになったり筋がわかりにくくなったりするあたり、情報をとってくる時間、まとめて文字にする時間、並べかえて書籍ゲラにして推敲する時間と考えると、締め切りのある中でこの文字数を扱うのは大変なんだろうなあ、とも。(専門外のことではあるし)。
COVID-19 の話がところどころに顔を出し(というのはインタビューはオンラインだったとか、あるいは治験のための無作為抽出の話だとか)今の「時代」を切りとった新書であるなあと、不思議な感慨もある。
「多腕バンディット問題」は、どの手筋を調べるべきか、適度に方向をばらまきつつ、しかしてばらけさせすぎずというバランスを取るために使われていると2年ほど前か、将棋 AI を考えていた頃に目にした単語。
モンテカルロ法とあわせてディープラーニングによる「学習」(訓練)を支えるバックグラウンドとして、(通信技術としての暗号化とならんで)現代の暗号の最前線と感じる。(本文でも取りあげられているシミュレーションも乱数最前線のひとつだな)
ただディープラーニングに関してはほぼ触れられておらず、それは記者さんのツテの限界なんだろう。分野を横断して関係を一望できる内容にするためもう一歩踏みだしてもらえるとよかったかも?
知識を(できるだけ)平易に、専門外の読者に向けてまとめる「記者」さんの仕事として、なかなかうまくまとまった本。