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幼稚園に来た「鳥寄せのオジさん」  奇人・珍人覚書-その1

「今日は鳥寄せのオジさんが来ます!」


朝のあいさつのあと、両端が吊り上がった赤いメガネの
年配の女の先生が、大きな声で園児たちに言いました。
突然キッパリと、そして決意を表明するような厳しい顔で。

「とりよせのおじさん?」
M幼稚園のバラ組の園児たちは何の事かさっぱりわかりません。

なんだかんだでお昼ごはんを済ませてから、外の園庭の大きな樫の木の下に全員が集合すると、その男は裏門からフラフラとやってきました。粗末な身なりで髪は肩まで届き、まるで日々の暮らしに困窮した浮浪者のようにも見えますが、なぜか眼光は鋭く自信に満ちています。

キッパリと宣言したその赤メガネの先生以外の人たちは「何が起こるんだろう?」とその哲学者のような男を不安げに見つめています。

そして男は右手を高々と差し出し、ある物を見せました。

穴のあいた五円玉です。

そして口に当てて吹き始めました・・「フューッ・・・ピーッ・・ヒュー・・」何も起きません。「フューッ・・・ピーッ・・ヒュー・・」
園児たちもあきれています。10分経ってもなにも変化はありません。
 
「なんだよー・・なんも来ないよー」と子供達がつぶやき始めたその時、頭上に一羽のスズメが飛んできました。「あっ、鳥が来たー!?」あれよ、あれよというまに目の前の木にスズメがビュンビュン飛んできます。

空はあたかも鳥の運動会のようで黒い点でいっぱいになってきました。こうなるともう訳がわかりません・・先生も生徒もビックリしてパニックになってきました。

「フューッ・・・ピーッ・・ヒュー・・」男は吹きつづけます・・。涙目で見ていた隣の女の子が「あーっつ!」と叫びました・・カラスです。カラスが黒い羽を広げて飛んできました、一羽・・二羽・・。そうこうしているうちに園庭の木はスズメ、カラス、もず、よくわかんない珍しい鳥達でいっぱいになってしまいました。

開いた口が塞がらないとはこの事です。男はまるで鳥達の支配者のように木の下に微笑みながら立っています。今思い出しても非現実的な光景です。

その様子を確認した男は五円玉を吹くのを止め、鳥達は役目が終わったかのように空に向かって飛び立っていきました。

そして男はキッパリと宣言した先生から白い封筒を受け取って、またフラフラと帰っていきました。

いったいあれは何だったんでしょうか?
今でもよくわからない奇妙で不思議な昭和の出来事です。

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