冷笑家の日常[第一話:コーンバターとニヒル]
都内のマンションに住む冷笑(れいしょう)家。
彼らは4人家族で父親のトオル
母親のマチコ
姉のスミレ
末っ子のリクオ
末っ子のリクオは高校生。彼は口角の片方が常に上がっていて、目は薄目に開いている。友人たちから付けられたあだ名はニヒルであった。厨二病の彼はそのあだ名を気に入っていた。
ある日の朝食。いつも最後にテーブルに着くのはリクオ。その日も眠い目をこすりながら椅子に座りテーブルを見ると違和感を感じた。
リクオの朝食は決まっていた。トーストにバターと苺ジャム、そしてコーンバターにコーンスープであった。
しかし、テーブルを見渡してもコーンバターが見当たらない。頭の中に「?」が浮かんでいると母親のマチコが「あ、ごめんね。昨日コーンを買うのを忘れてしまったの」
そう聞いたリクオは怒ってしまった。母親の発言を無視してトーストに怒りをぶつけるかのように大きな口を開けて齧り付いた。
トオルは「毎日ご飯を作ってもらっているんだから、一日忘れたぐらいで怒るんじゃない」というとスミレも「そうよ、そんなに怒るんだったら自分でコーン買ってきなよ。」
二人の発言にムカムカしたリクオはトーストを口いっぱいに頬張り、アツアツのコーンスープで流し込もうとしたが、本来は猫舌の為、涙目になりながら飲み込んで何も言わずに家を出て行った。
次の日の朝、いつも通り最後にテーブルに着いたリクオ。昨日の発言を根に持っていたリクオはテーブルに着くや否や手に持っていたコーンの400gの缶詰をドン!と音を立ててテーブルに置いた。
いつもは小鉢のような大きさの皿で食べているコーンバターを大きな皿に入っている400g全部入れて冷蔵庫からバターをたっぷり入れてレンジに入れた。
何も言わずに半ば呆れ顔で見ている家族を尻目に、リクオは笑顔でたくさんのコーンバターを頬張った。
しかし、半分を食べたところで彼はお腹の異変に気づいた。いつもはコーンバターを小鉢で食べているため400gのコーンとたっぷりのバターを食べ切るのはとても大変だった。最初の笑顔は何処へやら楽しみだったコーンバターが苦行へと変わっていた。
「どうしたの?苦しそうな子してるけど」と少し笑いながら話しかける家族に彼の負けず嫌いに火がついた。
時間のない朝に何度も深呼吸をし、テレビでやっていた大食いのテクニックの立ち上がりと着席を繰り返しお腹を落ち着かせた。
どうにか全部食べ切り、鼻息荒く台所の流しまでコーンバターの皿を持って行った彼に母親のマチコが「今日お弁当持って行く?」と聞いた。
いつもは学食で済ましているリクオだが、最近は金欠。素直に答えるのは少し恥ずかしいので目を合わさず、コーンバターで口が一杯なので無言で頷いた。
その日の昼。友達に学食に行こうぜと誘われたが、今日は弁当なんだと断る。珍しいなと弁当を開けるリクオを見守る友人たちの前で弁当の蓋を開けると、そこにはコーンバターがこれでもかと敷き詰められていた。
口に手を当て今にも吹き出しそうな友達が見てる中、リクオの右の口角はいつも以上に上がっていたが、ニヒルと呼ぶにはあまりにも程遠い表情だった。