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サングリア作ると違法ってなんでなの?という疑問

法律上、やってはならないことってたくさんある。
多くのことは、法律がどうのこうのというよりも前に、道徳的にダメかもとか、衛生的にダメかもとか、なんとなく納得がいく。
「人を殺してはいけないのってなんでなの?」と真顔で聞く大人はあんまりいない。
でも、サングリアを作るのは日本では違法だと言われて、あなたは納得できるだろうか。
ああ、道徳的にサングリアはだめだよねとか、そりゃ不衛生だからだめだよね、などと素直に思えるだろうか。

え?サングリア作ると違法ってウソでしょう?

いや、本当。ほぼ違法になる。酒税法違反。
ただし、家で飲む場合、私の理解では、以下のパターンならばギリ適法となる。

1.自分か同居の家族のために、混ぜてすぐ飲むパターン

自分、もしくは同居の家族のためにその場でワインと果物なんかを混ぜて、すぐに飲む。これは適法。これならば、他のカクテルや水割りを作って飲むのと同じ扱いになる。

2.自分か同居の家族のために、アルコール度数20%以上のワインを使い、間違ってもブドウは入れずに作ったパターン

これも適法。ただ、ワインって普通アルコール度数が20%よりも低い。ただ、20%以上の度数のワインも存在しないわけではない。そういう特別なワインを使うことが条件の一つ目。
かつ、ブドウやヤマブドウをいれたらダメ。季節によってはブドウを入れたくなると思うけどダメ。
入れちゃダメなものは他にもあって、米・麦・ヒエ・アワ・こうりゃんとかもダメ。まあ「サングリアに米と麦いれようっと」という人はほとんどいないだろうからそこは無視していい。

どちらも普通のサングリアのイメージとは若干異なる。
普通のサングリア、つまりアルコール度数20%未満の普通のワインを使って、いろんなフルーツを漬け込んで冷蔵庫で数時間から1日おいといてから飲むぞ、というのは違法、NG。
サングリアって普通そうやって作るよね?実は私は作ったことないのだけど。
その意味で、サングリアを普通に作って飲むのは、日本ではやはり違法なのだ。
え、そうなの?という気持ちになった人はWEB上の情報を検索してみてほしい。
完全な素人のブログなんかは別として、企業のページなどでは明示的に「気をつけないと酒税法違反になる」とかかれていたり、それとなく「作ってすぐに飲むように」と誘導していたりする。
プロの仕事は美しい。
そして憎き酒税法よ。

ここで酒税法の構造の解説

私は酒税法を憎んでいる。なので詳しく内容を確認した。
せっかくなので、ここにまとめてみる。

私が酒税法のなにを憎んでいるかというと、お酒となにかを混ぜることに対して、いろんな制限をかけていて、結果、一般の消費者の行動に制限をかけてしまっているという点だ。

■私がまあ許せること
家でお酒を醸造できない。

■私が許せないこと
家でサングリアが作れない。
家で友人に水割りを作れない。
家でみりんを作れない。

家で勝手にお酒を造ったら違法よ、という法律は、まああってもいいと考えている。
いやね、本当は作れるほうがいいんだよ。
でも今日は一旦そこはいいことにする。
お酒はみんなが飲みたい。だからそこに国で税金をかけよう。税金を確実に徴収するために、特別な許可を取った業者だけがお酒を造れるようにしよう。その理屈はわからないでもない。

問題は、一般人が家で「お酒を醸造すること」だけではなく、「お酒と何かを混ぜること」に制限がかかっているというその点だ。
お酒をみんなが勝手に醸造して飲むようになったら、酒税が取れなくなって困る。それはわかった。
でも、家でお酒となにかを混ぜて飲んでなにが悪いのか。混ぜたことをきっかけとしてアルコール分が増えるならばそれは一種の醸造なのでダメでいい。それはNGにしよう。でも、混ぜることでアルコールが増えないならば、単に買ったお酒の飲み方を工夫しているだけで、買ったお酒には酒税がすでにかかっているのだから脱税にもならないだろう。

酒税に関する法律は、
・酒税法
・酒税法施行令
・酒税法施行規則
・租税特別措置法
などがある。
これらの中で、家庭でお酒を混ぜること(混和)について制限している部分について解説する。

まず、「酒税法」において、個人が勝手にお酒を造ること自体が禁じられている。もちろん、お酒を造る業者としてちゃんと免許をもらえばそこは合法だ。とんでもない量を作ることが前提だったりするので個人がそれを行うのは非現実的だが。

そして、同じく「酒税法」に第43条「みなし製造」という条文がある。簡単に言えば、お酒となにかを混ぜて出来上がったものがお酒の定義に当てはまる場合、それはその時点でお酒を製造したとみなす、という意味だ。

お酒となにかを混ぜたらお酒を造ったとみなすよ
→ちなみにお酒を造るのは禁止にしたよね
→だからお酒をなにかをまぜたらダメよ

ざっくりこういう構造になっている。

それを原則とした上で、同じく酒税法第43条に、みなし製造とはならない例外ケースが規定されている。

10前各項の規定は、消費の直前において酒類と他の物品(酒類を含む。)との混和をする場合で政令で定めるときについては、適用しない。
11前各項の規定は、政令で定めるところにより、酒類の消費者が自ら消費するため酒類と他の物品(酒類を除く。)との混和をする場合(前項の規定に該当する場合を除く。)については、適用しない。

https://laws.e-gov.go.jp/law/328AC0000000006/20250601_504AC0000000068

上の10が、飲む直前で混ぜる場合、つまり水割りとかカクテルとかをOKにするということ。
そして11が、個人が自分のために自分で混ぜる分にはOKにしましょうや、ということ。

さて、次に酒税法施行令第50条(みなし製造の規定の適用除外等)というのが、上記の記載の詳細を補足する部分だ。

13 法第四十三条第十項に規定する消費の直前において酒類と他の物品(酒類を含む。)との混和をする場合で政令で定めるときは、酒場、料理店その他酒類を専ら自己の営業場において飲用に供することを業とする者がその営業場において消費者の求めに応じ、又は酒類の消費者が自ら消費するため、当該混和をするときとする。
14 法第四十三条第十一項に該当する混和は、次の各号に掲げる事項に該当して行われるものとする。
一 当該混和前の酒類は、アルコール分が二十度以上のもの(酒類の製造場から移出されたことにより酒税が納付された、若しくは納付されるべき又は保税地域から引き取られたことにより酒税が納付された、若しくは納付されるべき若しくは徴収された、若しくは徴収されるべきものに限る。)であること。
二 酒類と混和をする物品は、糖類、梅その他財務省令で定めるものであること。
三 混和後新たにアルコール分が一度以上の発酵がないものであること。

https://laws.e-gov.go.jp/law/337CO0000000097/20241001_506CO0000000146

13が、すぐ飲むパターン、つまりカクテルとかの方の補足。お店でやるのはOK。個人が自分のためにやるのもOK。ちなみに「酒類の消費者が自ら消費するため」という表現の「自ら」とは本人と同居の家族のことを指しているという解釈が一般的なようだ。友達とかは含まれない。家に遊びに来た友達にハイボールを作ってあげたりする気もするけど、これは実は違法。

14が、個人ならOKよ、の詳細。個人と言えどもこの条件を満たす場合のみを認めるんであって、それ以外はダメよ、という内容。

・ベースのお酒のアルコールは20%以上でなくてはならない
・混ぜていいものはまた別の法律で指定するもののみ
・また、混ぜた後にアルコール分が1%以上発酵しないものであること。

特に3つ目は、これを許してしまうとアルコールを醸造することを許してしまうのと同じだから、譲れない部分だろう。うん、理解できる。

一つ目の「ベースが20%以上であること」というのは本当に必要だろうか。20%以上となると、蒸留酒がほとんどであり、蒸留酒ならば生きた酵母などが混ざる余地もないので、そこに追加でなにかをいれても発酵してしまうことはないだろう、という判断なのだろう。言いたいことはわかるが、3つ目で「発酵したらダメ」とはっきりいっているのだから、余分な決まりな気がする。そしてこの決まりのせいでサングリアは家庭で作れなくなってしまっている。

そして、2つ目にある「混ぜていいものは別で指定する」となっているものの内容を早く知りたいよね?
それが書いてあるのが、酒税法施行規則の第13条だ。

3 令第五十条第十四項第二号に規定する財務省令で定める酒類と混和できるものは、次に掲げる物品以外の物品とする。
一米、麦、あわ、とうもろこし、こうりやん、きび、ひえ若しくはでん粉又はこれらのこうじ
ぶどう(やまぶどうを含む。)
三アミノ酸若しくはその塩類、ビタミン類、核酸分解物若しくはその塩類、有機酸若しくはその塩類、無機塩類、色素、香料又は酒類のかす

https://laws.e-gov.go.jp/law/337M50000040026

ここで、ブドウがNGと書いてある。そのせいで、サングリアを仮にアルコール度数20%以上のワインで作るとしても、ブドウが入っていたらNGとなるわけだ。

・・・さあ、長い説明を書いてきたが、本当に私が書きたかったことを書こうじゃないか。

サングリアなんて正直なんの興味もない。私がいいたいのは「みりん」のことだ!

サングリアを題材にここまで書いて来た。だが、私が本当にいいたいのはそこじゃない。サングリアなんて作らないし飲まない。
そうではなくて、私は「みりん」を自宅で仕込みたいのだ。酒税法を改正してほしいのは、その1点のみ。味噌を自宅で仕込むのと同じで、自分で作ったらなんだか楽しそうじゃないか。
皆さんは、みりんの製法を御存じだろうか。
ざっくりいうと、焼酎などの蒸留酒に、蒸した米と、米麹を入れて、半年ほど寝かし、濾せば出来上がり。らしい。簡単なものである。
米と米麹が原料だと聞くと、それを発酵させてお酒を造っているんじゃないの?と感じてしまう人が多い。でも実はそうじゃない。
むしろ、濃いめの焼酎(ないしホワイトリカー)に米と米麹をいれることで、菌は活動できなくなり、すでに米麹の中に生成されていた酵素の力のみで米と米麹の中のデンプンを糖化し、甘みと風味を出させるというのがみりんの製法のポイントだ。
仮に糖が菌の力でアルコール発酵してアルコールが生成されてしまったら、糖は分解されて甘くなくなってしまう。
甘くないみりんなんてないでしょう?
アルコール度数はもちろん増えない。

みりんの製法ってほとんど梅酒と一緒じゃね?

梅酒は、焼酎などの蒸留酒に、梅と氷砂糖などをいれ、寝かすことで作られる。これ、やってることはほとんどみりんと一緒だ。最初から甘い砂糖をいれるか、デンプンと酵素をいれて糖化させることで後から甘くなるようにするかの違いでしかない。
これでなぜ、梅酒はOKでみりんはNGなのか。
法律的にはその境目ははっきりしている。
酒税法だけみるとOKがNGかまだわからない。酒税法施行令をみてもまだわからない。酒税法施行規則に、

3 令第五十条第十四項第二号に規定する財務省令で定める酒類と混和できるものは、次に掲げる物品以外の物品とする。一、麦、あわ、とうもろこし、こうりやん、きび、ひえ若しくはでん粉又はこれらのこうじ

https://laws.e-gov.go.jp/law/337M50000040026

とかかれているからだめなのだ。
もうくっきりはっきり、米と米こうじはNGって書いてあるからね。

でも、それでもだ。
法律にわざわざこう書いているのはなぜか。
おそらく、これらの物品はもともとお酒の材料となりえるものであって、それらの物品をお酒とまぜて置いておくことで、何かの拍子に発酵してアルコールが増えてしまうことを警戒しているのだろう。

それを警戒するのは分かる。
ここでもう一度酒税法施行令から抜粋しよう。

14 法第四十三条第十一項に該当する混和は、次の各号に掲げる事項に該当して行われるものとする。
一 当該混和前の酒類は、アルコール分が二十度以上のもの(酒類の製造場から移出されたことにより酒税が納付された、若しくは納付されるべき又は保税地域から引き取られたことにより酒税が納付された、若しくは納付されるべき若しくは徴収された、若しくは徴収されるべきものに限る。)であること。
二 酒類と混和をする物品は、糖類、梅その他財務省令で定めるものであること。
三 混和後新たにアルコール分が一度以上の発酵がないものであること。

https://laws.e-gov.go.jp/law/337CO0000000097/20241001_506CO0000000146

「一」はアルコール度数が高めのもの、つまり実質的に蒸留酒のみとすることで、混和後にアルコール発酵してしまうことがないようにするため
「二」は、お酒の原料となってしまうようなもの、穀物やブドウなどを混ぜてはいけないと指定することで、アルコール発酵してしまうことがないようにするため
「三」は直接的にアルコール発酵させたらダメよと記載している
こんな構成だ。
ようは三つとも、アルコールが増えちゃだめよと、お酒を増やすことを禁じているわけだ。
上でも書いたけど、もう一度言わせてもらう。
「三」でアルコール発酵させちゃダメってかいてあるんだから、他の二つはもう不要なのでは?
「一」のせいでサングリアがNGになり、「二」のせいでみりんがNGになってしまっている。

この法律を作った人に聞きたい。あなた方が禁止したいのはサングリアや、みりんですか?
上記の「一」と「二」が存在することで国民に守らせられている、やっちゃいけない行為ってなんですか?具体的になにかありますか?
もしなにかそんな行為があるとして、それって「三」があれば違法になるんじゃないですか?「三」だけで防げるし、やるやつがいたら摘発できるんじゃないですか?

なにを細かいことを言ってるんだ、と、自分でも思う。
しかし、できるだけ不要なルールはない方がいい。
ルールはシンプルな方がいい。
その意味で、酒税法は改正の余地がある。

今日はまじめな流れのまま終了。

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