世界の大いなる収斂-ITがもたらす新次元のグローバリゼーション-
今回は、リチャード・ボールドウィン『世界の大いなる収斂-ITがもたらす新次元のグローバリゼーション-』遠藤真美訳(日本経済新聞出版社 2018)を独断と偏見でまとめます。
技術革新がもたらす新たなグローバリゼーション
近代以降のグローバル経済によって世界は目まぐるしく変貌を遂げてきました。そしてグローバル化の恩恵を受けた先進国は高度な経済成長を迎えました。
しかし1990年を境にG7諸国の世界シェアは急激に低下し、一握りの新興経済国のシェアが上昇しました。そして世界の富と知識の分布に大いなる収斂が生じつつあります。
果たして今後のグローバル経済はどのような未来を辿るのでしょうか?
そこで本書では、「モノ・アイデア・ヒト」の移動コスト、つまり「距離」に焦点を当てて今後のグローバル経済の展望について考察します。
まず、グローバル経済の変容は「三段階制約」論の構図にまとめることができます。
グローバリゼーション以前の世界では、「貿易コスト・通信コスト・対面コスト」が高く、生産と消費活動が地域に限られていました。
産業革命以降の世界(第一次グローバル経済)では、造船、鉄道などの交通インフラが発展したことにより、「貿易コスト・輸送コストの低下」が起こり、モノの生産と消費が空間的に切り離されました。
その結果として、先進国(G7)では産業地帯が集積し、工場化からイノベーション主導型の成長へと繋がりました。
しかし、1990年以降の(第二グローバル経済)ICT革命によって「通信コスト・調整コスト」が低下し「アイデアの移動」が急速に引き起こされました。
この結果、先進国のノウハウやアイデアが南に流れ、後進国の工業化が進みました。
企業は、国際生産をするようになり、高い技術国の知識が低賃金国へと流れ、後進国ではキャッチアップ型の経済発展を遂げることができました。
上の流れが今日までのグローバル経済の構造です。
では今後、第三のグローバル経済はどのように変貌していくのでしょうか?
著者によると、
新たなグローバル化は、技術革新により対面コストの低下、
つまり「ヒトの移動コストの低下」を生み出し、さらなる経済発展の原動力になると言います。
具体的には、「バーチャルプレゼンス革命」と「テレロボティクス」があります。
「バーチャルプレゼンス革命」と「テレロボティクス」とは、ITCが発達して、人間の分身が人のあつまる会議に出席できるような技術革新のことです。
高品質な画像や音声、高解像度カメラなどの技術を駆使し、ヒトの移動コストを引き下げます。
また更に技術発展すると、「バーチャル移住」が可能になると言われています。
これにより、発展途上国の肉体労働者が、先進国のショッピングモールにいる警備員をロボットで遠隔操縦して支援する事や、掃除ロボットを遠隔操作して業務を行うことができるようになります。
また、豊かな国の高技術者が遠隔操作で発展途上国にある工場のロボットをコントロールすることができる可能性もあります。
このような新たな技術革新が第三のグローバル経済を生み出し、さらなる経済発展に寄与する可能性があると著者は主張します。
まとめ
今回は、リチャード・ボールドウィン『世界の大いなる収斂-ITがもたらす新次元のグローバリゼーション-』遠藤真美訳(日本経済新聞出版社 2018)を独断と偏見でまとめました。
本書は2018年に出版されており、コロナ以降のリモート会議などの流れが、著者が予見していた第三次のグローバル経済のそれとまさに同じだと思いました。
また、新たな技術革新による負の影響として、低技能労働者が淘汰される可能性などがあります。
そのため、未来を見据えて「スキル」を身に付け、高技能な人物になるように心掛けてないといけないなと思いました。
本書では、より詳しい内容が書かれていますので、興味があればぜひ読んでみてください。