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国家はなぜ衰退するのか-権力・繁栄・貧困の起源-[上][下]

今回は、ダロン・アセモグル&ジェイムズ・A・ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか-権力・繁栄・貧困の起源-[上][下]』鬼澤忍=訳(早川書房 2016)を独断と偏見でまとめます。

自由を支える制度が国家を繫栄させる

ノーベル経済学賞受賞者や名だたる歴史学者が賛辞を贈るのが、国家の繁栄と衰退の起源を説いた本書です。

著者は、現代から過去までを振り返り、繁栄と貧困、地域間で格差が生じる理由を明らかにします。

先に結論を言えば、
豊かな国と貧しい国が存在する理由は、「政治経済制度」の差異によるものです。
これは、今日の朝鮮半島、アメリカとメキシコ国境線沿いのノガレス地区や、
植民地解放後の南米諸国、アフリカ諸国、
13世紀ペスト発生後の西欧と東欧、名誉革命後の英国とスペイン・ポルトガルなどの絶対王政国家などすべての事象に当てはまります。

では、国家が繫栄するために必要な「政治経済制度」とは何か。
本書で繰り返し、主張されているのは、包括的な経済制度に支えられた包括的な政治制度が持続的な繁栄の鍵であるという事です。

つまり、ある社会を支配している制度的枠組みが収奪的ではなく、包括的である場合に限ってその社会が持続的な成長を遂げることができます。

具体的には、
一定の政治的中央集権制と代議制を持ち、法や秩序を課し、財産権を堅持し、必要ならば経済活動を促進できるような制度を用いている社会のもとでは国家は繫栄します。

市民が政治家やエリート層、権力者を監視できることによって権力の乱用を防止する事が出来ます。それによって大勢の人が自由に経済活動に参加でき、民間投資や技術革新を行うインセンティブが生まれ、イノベーション(シュンペーターのいうところの創造的破壊)を促されます。また、私的財産権により道路・生活インフラが整えられ、輸送網が発達し、経済や交易が発展します。

これが国家が繫栄する最大の鍵になります。
実際に、名誉革命後のイギリスは世界でいち早くこの条件を満たし、大英帝国への興隆しました。

一方で、収奪的経済制度、収奪的政治制度を用いた国や地域は、持続的な成長を享受する事が出来ませんでした。
紀元後1世紀ヨーロッパ全土を支配していた帝政ローマや、エチオピア(アクスム王国)、14世紀に都市国家として栄えたヴェネツィア、17~18世紀植民地貿易で繁栄したスペイン、ポルトガルの絶対王政、15~19世紀に当時世界で最も早く大航海していた中国などの国々は衰退の一途をたどります。

また、白人列強の植民地主義から解放された南米諸国やアフリカ諸国では、白人が支配した収奪的制度から、現地の一部エリート層、特権階級の収奪的制度へとその権力が移り変わっただけで繫栄することがありませんでした。

これらの地域で収奪的な制度が用いられた原因は、
特権階級や権力者の創造的破壊への恐怖です。
これは、技術革新やイノベーションによって民間人、経済人、商人が力をつけ、支配者の地位、権力、財産、既得権益が揺らがすといった恐怖のことです。
つまり支配者は、権力を保持し、甘い蜜を吸い続けるために収奪的制度を用いたのです。

もちろん収奪的政治制度で成長と遂げた国もあります。
それがソ連でした。
1970年代のソ連は、政治制度と経済制度は極めて収奪的であり、市場は厳しく制約されていました。しかし、国家権力を使って非効率的な農業から工業へと資源を移動させたことにより、一時的に飛躍的な成長を遂げました。

ところが、のちにソ連は崩壊してしまいます。なぜなら、収奪的制度によって生み出される成長は、包括的制度と違い、持続不可能だからです。
結局、収奪的制度によって引き起こされるのは、創造的破壊ではなく、限られた技術的進歩による成長に過ぎませんでした。

上記で、様々な時代や地域の繁栄と衰退を見たように、国家が持続的に繫栄するためには、国民の自由を支える包括的な政治経済制度が重要なのです。

まとめ

今回は、ダロン・アセモグル&ジェイムズ・A・ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか-権力・繁栄・貧困の起源-[上][下]』鬼澤忍=訳(早川書房 2016)を独断と偏見でまとめました。

本書を読んだ理由は、前々回にまとめた『「経済成長」の起源-豊かな国、停滞する国、貧しい国-』(草思社 2023)を読んだ際に、紹介されていたからです。
やはり要約された内容ではなく、自分で読み込んだ方が、気づきや学びが多いなと思いました。

当初、本書を[上]と[下]に分けてまとめることを計画していました。
しかし、国家の繁栄と衰退の起源は、著者が一貫している通り、包括的で自由が保障されている政治経済制度か収奪的な制度かの違いです。
そのため、今回は、[上]と[下]を同時にまとめました。

ところで、歴史はやっぱり興味深いなと思います。
およそ1万年前から人間の脳は進化していないと言われているので、古今東西、人間は同じことを繰り返します。

経済で言えば、既得権益を持っている集団が、新参者に対して高い参入障壁を設けて、政治家とズブズブの関係になっていれば、経済は停滞してしまいます。彼らは現状維持で十分満足ですから、技術革新やイノベーションのインセンティブは生まれにくくなります。
これは歴史を見れば明らかです。そういった観点で本書を見ると、非常に納得感があり、興味深かったです。

ボリュームはありますが、とても面白いので『国家はなぜ衰退するのか』
ぜひ読んでみてください。



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