私と彼女の分散婚外①
私トモヤは今、人妻カツラと博多の海の見えるラブホテルで、カラダを重ねた情事の時間を過ごしている。
人妻カツラは2ヶ月に一度愛媛からトモヤに電車と新幹線を乗り継いで会いに来る。そのため逢瀬は限らた時間の中、合えなかった分の想いを凝縮させて、ありったけ濃厚に過ごす。
昨夜18時にJR博多駅で待ち合わせをして、西中洲のいい感じのお店に入り、二人ともビールや焼酎、肉料理を満足いくまで味わった。そして、トモヤは予約していたこのホテルにカツラを誘い、タクシーで22時頃にチェックインした。
出会ってから3年、お互いに年は取ったが、カツラの相変わらず肉感的なカラダとその丸顔に魅せられているトモヤ。3年前、SNSで知合い、半年程度、メールや電話、LINEをして、お互いの距離を探り探り縮めた。顔だけの画像交換は済んでいたが、カツラは恥ずかしがってそれ以外は見せてくれなかった。
『期待しないでね。もう40歳超えると、オンナは自身がなくなるから』と遠慮がちに言っていた。
私には、焦らされて今にも涎を垂らすような犬にずーっとマテをされているようなものだった。なので、家庭のある二人であったが、お互いに会いたくなっている気持ちはメールやLINEの行間に伺えていた。
知合ってから最初の年末に愛媛県松山市の建設会社から仕事依頼がきた。地元の不動産業者とそのゼネコンが松山市の中心部に大型分譲マンション事業を計画しており、そのコンサル業務の案件だ。
年末という多忙な時期に来た仕事だが、私は他のことをすべて放り出すつもりで喜んで受けた。
(カツラに会えるかもしれない)
『年末忙しいと思うけど今週金曜日に松山市に行きます。一泊なので、どこかのタイミングでお茶とか出来たらいいんですが、どうでしょか?』
私は少年が初めて想いを寄せる同級生に小さな紙片を渡すようなドキドキ感をもってカツラの回答を待った。送った後、LINEは既読になるまで2時間程度経過し、返信があったのは夜の21時を回っていた。
『松山においでになるんですね。長い時間は無理ですが、少々なら大丈夫かな。逢ってもがっかりしないでね』既読。
『いえいえ、急な仕事でいくので、お茶しかできないけどごめんね』既読。
『はい。平日なら午後4時までに松山でられたら大丈夫』既読。
『分かりました。だったら2時に●●町にあるコメダで逢いましょう』既読。
『はい。トモヤさん、私にがっかりしないでね』既読。
『こちらこそ。じゃあ、おやすみなさい』既読。
『おやすみなさい』既読。
私はスマホ画面を消した。金曜日にカツラに会えるという高揚感を感じてた。妻には今週金曜日土曜日と愛媛に仕事に行くと伝えた。特段興味なさげに頷いていた。
カツラは松山市近郊の小都市に住む人妻。今までの話しの中で仕事はフランチャイズのスポーツジムの仕事をしているとのこと。何か月に一度、ジムを経営してる母体企業が講習会をすること。子供が二人いて、PTAや学校行事などで参加できなかったが、下の子供が中学生に進学するので、年度明けから正社員になり、講習などを積極的に受けたいという意思があること。カツラの主人は造園業を営んでおり、愛媛から香川、大分、広島まで出張が多いこと。職人気質なため、生活全般もセックスも自分本位で既に愛情がないこと。下の子が産まれた後、求められても拒否しており既に12年はセックスレスあること。その主人にもオンナの影があることなど。
金曜日の夜明け前、私は大分の佐賀関に向かってクルマを走らせた。佐賀関からカーフェリーに7時に乗り、三崎には1時間弱で着く。そこから2時間で松山市に着くはず。11時には松山市で1時間程度の打ち合わせを終えたら、カツラに会える。念のため、カツラには午後1時過ぎにコメダで逢う約束にしている。
『おはよう。今、博多を出て佐賀関に向かってます。天気は今一つですが、フェリーは大丈夫そうです』既読。
『運転気を付けてね。午後にはコメダに行くね。ドキドキしてます』既読。
既に大分に入り、クルマは順調に佐賀関に向けて走っている。7時前にはクルマも乗船できて、キャビン内で簡単な朝食を摂って、コーヒーを飲む。さすがに海の上なので、風は冷たい。私は今からの仕事の段取りをノートPCで確認し、現場の状況を把握しておく。
定刻より10分程度遅れて三崎に着く。クルマにのって松山自動車道を北上し、松山市内のゼネコン本社に入った。そこで予定より1時間押して13時に打ち合わせは終わった。
「お昼一緒にどうですか」
担当者に誘われたが、所用があるといい断りを入れる。直ぐにパーキングからクルマをだし、約束のコメダに向かう。
(来てくれるのだろうか、カツラは)
ただLINEとメール、電話しかしていない人妻が私のような男性のために会いに来てくれるのだろうかと不安感がある。こういう出会いは初めてで、自分にもそう自信があるわけではない。既に50歳の中年期に差し掛かっていて、見た目にもハンサムとは言い難い容姿であることも自覚している。
コメダに着き、ドアを開けると思いのほか混んでいる。店員に声をかけられるが、先に来ている方との待ち合わせといい、店内を見渡すと、奥の席に女性が一人座っていた。その女性も私を認め、じっと見ている。
(カツラだ)
私はビジネス鞄をもって、その女性の前の席に座る。
「お待たせました。私、トモヤです。遅れましてごめんなさい」
「いえ、私も来たばかりです。カツラです」
初めて逢うカツラ。髪は肩まであり、顔は丸顔、目は大きくもなく小さくもなく、唇はルージュでほんのり赤く小さい。冬の装いでベージュのセーターを着て、胸のふくらみはそれほど大きくないが、カツラには合っている。雰囲気は大人の女性だが、40歳を超えているようには見えない。
「カツラさん、どうします?出ます?それともここでお話しします?」
「トモヤさんにお任せします」
「じゃあ、こういうとこだとゆっくりお話しできないのでコーヒーと何か買ってテイクアウトしましょうか?」
「はい」
私とカツラは店内で、テイクアウト用のコーヒー二つと簡単なサンドイッチをオーダーし受け取って店舗を出た。クルマに乗り、カツラも助手席に乗った。
「改めてカツラさん、こんにちは。初めまして」
「こちらこそ、こんなオンナですけどよろしくです」
まだ緊張しているカツラ。コーヒーを渡したときに手に触れた。
「海まで行きましょう。そこでクルマの中で話せたらって思いますが」
「はい。私もその方がいいです」
クルマを瀬戸内海が見える港沿いのパーキング迄走らせた。車内で二人とも沈黙を嫌がるように色々しゃべりつづけた。仕事のこと、今の夫婦関係のこと、子供のこと、そして今まで二人でやり取りしてきたメールやLINEのことを。
パーキングに停めると、私はもう一度カツラを見つめる。カツラも黙って私を見つめている。ふいに唇を重ねた。
「ん、カツラ、逢いたかった」
「んうん、私も」
そのまま私はカツラの唇を舌先でこじ開けるとカツラもそれに応えて舌を絡めてきた。今まで逢えなかった時間を埋めるように二人は求めあって唇を舌をいっぱい吸いあった。離すと私は助手席のカツラを抱きしめ、カツラも両手を私の背中に回す。カツラのおっぱいの感触が私のカラダに伝わる。
「ね、私、今夜は松山に泊まるんだけど、そこへ行っても良い?」
「ごめん、それほど今日は時間がないんです。またでもいいですか」
「うん、時間がないのにごめん。でもまた逢ってくれますか?」
「いいんですか、わたしでも…」
「はい。また逢いたいです」
「うれしい。今度ね」
その言葉に私は舞い上がってまたカツラにキスをする。既に午後3時を回っている。
「もうカツラさんを手放す時間かな」
「ん、駅まで送ってください」
「はい。私も駅のクラウンホテルなので、送りますね」
クルマはそのパーキングを出て、松山駅に向かった。途中信号機で停車のたびにカツラの右手を握る。年よりも若々しい手の甲を撫でる私。その度にカツラはニコッと笑みを浮かべる。駅に着くと、カツラは名残惜しそうな表情をする。
「トモヤさん、明日は何時まで松山にいるの?」
「10時にチェックアウトしてそれから戻ります」
「ん、気をつけてね」
カツラは助手席から降りると周りを気にしながら駅に消えていった。