これから初めてマンション購入しようと思ってる方へ
わたしがいま住んでいる分譲マンションは築23年。20年を超えてくると大抵、電気系統やら機械系統やらガタが来始め、いろんな修繕費がかかるようになってくる。しかも昨今の物価上昇。数年後に控える第2回目の大規模修繕も含め、長期修繕計画をシビアに立て直すと修繕積立金の枯渇は必至なので、毎月所有者から徴収する積立金の値上げの必要性を理事会でずっと協議してきた。
だれしも出費は必要最低限にしたいし、考え方も人それぞれだから、値上げは難題だ。2年間話し合ってやっと案がまとまり、次回の管理組合総会に上程することになっている。おそらく総会でも一定の紛糾が予想されるが、しかし、これを乗り越えて合意を形成していかないと資産価値が維持できない。理事長はじめ、なるべく合意を得やすい案の策定をリードしてくれているみなさんには感謝しかない。
まったく、区分所有建物というのは面倒な資産である。これからマンションを買おうとして、ぴかぴかのモデルルームに胸をときめかせている若い人たちに問いたい。あなたは見ず知らずの大勢の人たちと、不動産という高額の固定資産を、所有権という強大な物権(+それに伴う責任)をもって共同所有する関係に入るのですよ。しかも、それら大勢の共有者はお互いを選べないんですよ。その覚悟はできてますか?と。
だいたい、「あれがわたしのマンションよ♪」といって指さした建物のうち、およそ目に見えるほとんどの部分は他人様との共有である。わたしが「わたしのもの=mine」と胸を張って言えるのは戸境壁に囲まれた「空間」だけだ。外壁からエントランスからエレベーターから階段から廊下から、各戸の玄関扉やベランダ、窓、戸境壁まで、すべてが他人様との共有(わたしたちのもの=ours)。自分一人で好き勝手はできないし、逆になにか不具合があれば修繕について責任を負う。1階に住んでいもエレベーターに不具合があれば、あるいは車を持っていなくても機械式駐車場に不具合があれば、どうするかをみんなで検討しなければならないし、自分が払う管理費や修繕積立金からそれらの修繕費を払うことを拒否できない。
ところが、世の中の区分所有者の中には「わたしたちのもの=ours」という意識が欠けてる人も少なくない。かくいう私も36歳で最初のマンションを購入したときは、区分所有のなんたるかも管理組合のなんたるかも、まったく知らないまま買ってしまった(こういう大切なことはマンション販売会社のお兄さんは説明してくれない)。住み始めてから大反省して不動産の勉強を開始。どうせやるならと宅建の資格を取り、勢いでマンション管理士の試験も受けてみた(落ちた…笑)。
その後も2つの区分所有建物に住み、現在は4軒目。その経験からいうと、マンションの資産価値の維持は、所有者の集まりである管理組合がちゃんと機能しているかどうか(管理会社が、ではない)にかかっている。「マンションは管理を買え」というのはそういうことだ。いや新しいうちはいいんですよ、何も壊れないから。でもいろいろなところにガタが来だすと、それが身に染みてわかるようになる。
わたしの住む地方都市ではまだそんなことはないが、都心だと所有者の大半が純粋な投資目的という物件も多いだろう。しかもその多くが外国人だったりしたら管理組合ってどうなるのか?・・・あんまり想像したくないけど。
しかも、いくら所有者たちがちゃんと「ours」の意識を持った「意識高い」系であっても、高齢化という現象には抗いがたい。最近は新聞や雑誌でも「建物と所有者のダブル高齢化によるマンション管理の危機」とかの特集が組まれるようになったが、実際に所有者の平均年齢が還暦あたり(おそらく)の区分所有建物に住んでいると、今はよくても10年後20年後はどうなるだろう……という不安は拭えない。
以前に住んだマンションには「わたしは仕事が忙しいから順番が回ってきても理事はやりません、そもそも管理組合にも入りません」というアホが実在したが、これからは要介護のため、あるいは認知症のため「物理的に理事が務まりません」というオーナーも珍しくなくなるだろう。
自分がそうなって他の共有者のみなさんに迷惑かける前に、わたしはやっぱり有料老人ホームに引越しかなあ……。マンションはやっぱり終の住処にはならないのかもしれない。
これから初めて買う方は、新築でも中古でもどうぞ区分所有者となる覚悟を決めてからお求めください。たとえ人生のいっときでも、自分の城を持つことの心理的安心感は、それはそれでとても大切なことなので。