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ここ数日のテレビにおけるVOCALOID楽曲についての私論
皆さんご機嫌いかがですか?松谷リョーでございます。
本日は楽曲紹介はお休みして私がここ最近経験した出来事についてつらつら書いていこうかなーなんて思います。
本日の話題はタイトルにあるように昨今のテレビ番組におけるボカロ曲の扱われ方についてですね。
端的に自分の考えを申し上げますと
「ちょっとテレビ界調子乗りすぎじゃない???」
そんな一言に尽きますね。ここ最近ボカロPや歌い手出身のアーティストが大人気であるから取り上げたくなる気もとてもよくわかるんですよ。
でもそれにしてはあまりにも扱いが雑すぎる
ボカロ文化に携わってきた方々に対するリスペクトが足りなさすぎる。
そんな感じにどうしても思われてしまうのです。
その根拠となる私が実際に見た二つの出来事をお伝えしようと思います。
1/命に嫌われている。 ボーカロイド表記問題
こちらの問題はヤフーニュースなどにも取り上げられるほどネット上で話題になりました。
2021年12月23日放送の「歌唱王~歌唱力日本一決定戦~」(日本テレビ系)その番組中にVOCALOIDの楽曲を唄うというチャレンジングな方がいました。その方は今回の企画で優勝なされまして、自分も見ていてここまでこの曲を表現力をもって歌うことのできる人は中々見たことがなくすごいと思っていました。また、歌唱王で優勝した方がVOCALOID楽曲を使用したということでこれも2021年の目まぐるしいボカロ文化の発展だなと思いました。
ここで使われた曲はあの「命に嫌われている。」でした。
2017年8月6日にカンザキイオリさんによって投稿され、現在は18,203,767 回(Youtube)、3,290,118回(ニコニコ)(2021/12/25現在)という驚異的な再生回数を誇り、ボカロの歴史に深く刻まれた一曲でもあります。
今年では歌い手として活動しながらメジャーアーティストとしても活躍されているまふまふさんの歌ってみた動画がYoutubeで一億回再生され、紅白歌合戦で歌うこととなったことも記憶に新しいですね。
さあこの「命に嫌われている。」という曲、そう、カンザキイオリさんの曲以外の何物でもないんですよ。
私が初めて書いた記事の中でボカロ曲はボカロ曲とまとめられるべきではないという話をしました。それはあくまでもボカロクラスターの人たち、あるいはこれからボカロを聞いてみたいと思うような人たちに向けたものでした。なので一般的に言えばボカロ曲はVOCALOID楽曲とまとめられても仕方がないとは思うんですよ。ですけどね?
これは流石にひどすぎるよ…
この曲は確かにボカロの曲です。普通は歌っている歌手の名前が上図の「ボーカロイド」って書かれているところにくるので、本来は作曲者である「カンザキイオリ」という名前がここにあるべきなんです。一番いいのは「カンザキイオリfeat.初音ミク」ですね
そこまでいかなくても「初音ミク」表記までならまだ一般的な慣用例があるのでまだ許せます。最悪「VOCALOID楽曲」表記なんかでも大丈夫なんですよ。なのにこのカタカナでの「ボーカロイド」表記。あまりにも扱いが雑すぎます… 散々ボカロを今年のトレンドとして扱ってきてこの体たらくとは目も当てられません。ネット上で言われていましたがこれでは「○○/人間」表記をしているのとおんなじなんです。本当に。そんなん嫌でしょう?あらゆるバンドが「人間」表記されるなんて。それと同じ嫌な感情を少なくとも私は持ちました。
2/夜撫でるメノウ TIK TOK問題
自分の中ではこっちの問題の方が問題は下火であっても怒り度合いは上位に位置する問題です。
2021年12月19日にフジテレビ系列で放送された「これが定番!世代別ベストソング ミュージックジェネレーション」において番組の最後に紹介された曲がAyaseさん作曲の「夜撫でるメノウ」でした。
「夜撫でるメノウ」は2019年2月10日にニコニコに、翌日にYoutubeに投稿された初音ミクをボーカルとした楽曲です。またそれぞれ一年後にはAyaseさん本人によるセルフカバーバージョンが投稿されており、Youtubeでは26,305,661 回というセルフカバーの中でも異例の再生回数を誇っています。
何気なしに見ていた番組だったのでCM前にMVのイラストが映し出されたときは、あまりの衝撃に時間帯を忘れて叫んでしまうほどでした。
ですがいざ流れてみるとその紹介はとてもいいものとは言えませんでした。
若者世代代表の方がこの曲を紹介して曲が流れた時に、とある出演者さんがこうコメントしたんです。
「すごいTIKTOKの曲って感じ」
まずここに出演者さんへの誹謗中傷の意がないことを明示します。あくまでも発言の内容に疑問を感じたのであり、出演者さん自身に悪い感情を抱いているわけではありませんことをご了承ください。
はい、出てきましたね。ボカロ、TIKTOK軋轢問題。
ボカロオタクの人ってTIK TOKのことを目の敵にしている人が多いんですね。その多く原因は無断使用とユーザーのリスペクトの低さと言われています。
自分はTIK TOKに対して否定よりだけど容認は可能みたいな考えを持っているんです。
TIKTOKの流行るスピードってそれはもう凄くて一瞬にして若者をそのブームに乗らせちゃうんです。
TIKTOKがボカロに与えた影響も悪いものばかりではなく、例えば2020年のボカロを代表する一曲「グッバイ宣言」Chinozoさんによるこの楽曲は83,426,524 回再生(2021/12/26現在)でYoutubeでのVOCALOID楽曲再生数ランキングが1位になるというボカロ史に名を残した曲となっています。
この曲はイラストの特徴的なポーズや爽快な曲調からTIK TOKで絶大な人気を博し、その人気がYoutubeに逆輸入されたというボカロにおけるTIK TOKのとても良い使われ方でした。
1,2年の間にボカロの歴史が塗り替えられてしまうほど、TIK TOKの拡散力ってすごいんです。だからかつてニコニコからYoutubeに動画媒体が移ったように、今後YoutubeからTIKTOKに媒体が移行する可能性もなくはなくて、私自身それはまあありなのでは?と思っています。
ですがやはり一番の問題点、私がTIKTOKユーザーに対して最も許せないことは、「ボカロ曲をTIKTOKの曲呼ばわりする」ことです。
これは多くのボカロファンが思ってるんじゃないでしょうか
「○○って曲知ってる~?」って聞いたときに「あ~TIKTOKの曲でしょ?知ってる~」って言われるのがものすごく嫌なんですね。
じゃあ何で嫌なのか、それは楽曲制作者へのリスペクトが足りてないから。
ボカロ文化は二次創作の文化でもあります。
元となる楽曲が原点にあって、そこから「歌ってみた」「踊ってみた」「演奏してみた、弾いてみた」「MMD」「手描きMV作ってみた」などの様々な二次創作コンテンツがあってそれらをひっくるめた「VOCALOID」という文化が発展してきたのです。これらにおいて大元となる楽曲がなければそれ以降のコンテンツも発生しない。そのような感覚から我々二次創作クリエイターは楽曲制作者様への尊敬と感謝の念を忘れてはいけないのです。
しかし上記のようなTIK TOKの例はどうでしょうか?
ユーザーがボカロ原点の曲をTIKTOKの曲と誤認している。明らかにコンテンツに目を向けようともせずティックトッカーの方々にのみ目を向けている。TIKTOKをそこまで深く見ているわけではないのですべてのユーザーがとは言えませんが、少なくともそのようなユーザーがいることは事実なんです。
TIKTOKユーザーを遍く否定するつもりもTIKTOKというコンテンツの必要性を否定するわけでもありません。ただ楽曲制作者様へのリスペクトを忘れずに「TIKTOKの曲」なんていう戯言を言って欲しくないだけなんです。
話がだいぶ逸れてしまいましたが、以上が私のボカロ、TIKTOK軋轢問題に対する見解です。ですがこれだけではテレビ番組側に全く問題なかったのでは?と思う人もいると思います。
しかしここで別の問題があったのです。参考画像は見つからなかったのですが鮮明に覚えています。
この番組で紹介されていた楽曲、その紹介テロップが次のような表記でした。
夜撫でるメノウ/Ayase(’21)
ここでもう一度「夜撫でるメノウ」の楽曲情報を見てみましょう。
「夜撫でるメノウ」
・2019年2月10日にニコニコに、翌日の2019年2月11日にYoutubeに投稿された初音ミクをボーカルとした楽曲。
・一年後の2020年2月10日にニコニコに、翌日の2020年2月11日Ayaseさん本人によるセルフカバーバージョンが投稿。
おわかりでしょうか、どこにも2021年という情報はないんです。
紹介されたセルフカバーバージョンを本家ととらえたとしても2020年なんです。どう足掻いても「2019年」或いは「2020年」としか表記はできないはずなんです。
しかも紹介されたのもセルフカバーバージョンのみ。表記から見ても、「夜撫でるメノウ」のボカロとしての歴史が抹消された。そんな紹介とみなされても仕方なかったのです。
これはどう考えてもテレビ局側の下調べ段階に問題があります。TIKTOKで流行ってるから紹介しとけば若者に受けるだろ、などのような薄っぺらくボカロ好きを軽視するような考えが見受けられるのです。
CM前に地上波でボカロ曲が紹介される、といったわくわく感もとうに消えて、後味の悪さしか残りませんでした。
以上の2つの件から
テレビ局のボカロ曲に対する扱いがあまりにも雑すぎる。
ボカロ文化に携わってきた方々に対するリスペクトが足りなさすぎる。
そのようなことを今のテレビ界に感じてしまいます。
ですが、テレビで紹介されるボカロ。すべて悪いわけではないんです。むしろ私が見た番組の中ではよい紹介をしていた番組もたくさんあります。
例えばNHKで放送されていた「沼にハマってきいてみた
セカイは、沼であふれている。」のボカロ沼、多くの著名人がボカロ曲に対する愛を語るというクリエイターへの愛が溢れた番組でした。
例えばNHKで放送されていた「NHK MUSIC presents 夜光音楽 ボカロP 5min.」一週につき一人、DECO*27やsyudouといった有名なボカロPとの対談を通してボカロへの理解を深める番組。ボカロPによるこの時のためのリメイク版も作られたりと、五分間という短時間にもかかわらずとても満足度の高く良質なコンテンツを含む番組でした。
例えばテレビ朝日で放送された「関ジャム 完全燃SHOW」この番組のボカロ特集ではくじらさん、syudouさん、バルーン(須田景凪)さんという名だたるボカロPとその経歴を特集したもので関ジャニ∞とボカロPというジャンルが異なるけれどもともに音楽の世界にいる方たち、彼らの対談によりジャニーズ音楽とボカロ音楽の溝が少なくなった。そんなよい番組でした。
例えば日本テレビで放送された「バズリズム 02」ボカロPのDECO*27さんやボカロが大好きな松丸亮吾さん、更には歌い手の超学生さんといった豪華ゲストを招き今年流行るボカロPや歌い手を紹介する番組でした。幅広いクリエイターを紹介しており、ボカロ文化の紹介番組としては最も良いものでした。
このようにクリエイター様へのリスペクトが十分にある良質なボカロ番組はたくさんあるのです。前述した番組もちゃんとボカロ文化に対するリスペクトがあれば問題にはならなかったのかなと思います。
今後のテレビ局にはクリエイターさんへの感謝の念を忘れずにボカロ文化を世間に広めることに一役買って欲しいものです。