論文紹介:Thickening serious leisure: a review of studies that employed the Serious Leisure Inventory and Measure (SLIM) between 2008 and 2019(Lee, Kofan; Gould, James; Hsu, Hsien-Yuan;, 2022)
こんにちは。駒井です。
昨日ある方からレビュー論文を中心に読んでいくといいよ、とアドバイスいただいたので、自分が関心があるキーワードについて書かれたレビュー論文を100本ほどリストアップしました。今後はこのリストを消化しながら、周辺領域の知識を広く得ていくことになりそうです。
本日紹介する論文は、シリアスレジャーを計測する尺度、Serious Leisure Inventory and Measure (SLIM)に関するレビュー論文です。
読んだ文献
Lee, K., Gould, J., & Hsu, H. Y. (2022). Thickening serious leisure: a review of studies that employed the Serious Leisure Inventory and Measure (SLIM) between 2008 and 2019. Leisure Studies, 42(2), 296–313. https://doi.org/10.1080/02614367.2022.2107053
要約
この論文は、2008年から2019年の間に発表された34のジャーナル研究をレビューし、Serious Leisure Inventory and Measure (SLIM) がどのように余暇活動研究に利用されているかをレビューしています。
SLIMとは
SLIMは、個人が余暇活動に真剣に取り組む度合いを測定するための尺度で、真剣さと永続的な利益という2つの主要な概念で構成されています。
真剣さは、多大な努力、忍耐、レジャーキャリア、独自の精神、自己同一化という5つの側面によって測定される概念です。レジャーキャリアは、レジャーキャリアの進捗(活動における進歩)とレジャーキャリアの偶然性(進歩を示す目標や目的)の2つの側面に分かれています。
永続的な利益は、9つの個人的な成果と3つのグループの成果からなる概念です。個人的な成果には、自己充実、自己実現、自己表現能力、自己表現の個性、自己イメージの向上、自己満足、自己満足の喜び、レクリエーション、金銭的リターンがあります。グループの成果には、グループの魅力、グループの達成、グループの維持があります。
SLIMは、これらの概念を測定することで、個人が余暇活動に真剣に取り組む度合いを評価することができます。
SLIMの使用状況
対象: 多くの研究は米国で行われ、成人参加者を対象としたものが多数を占めています。特定の年齢層に焦点を当てた研究では、高齢者が多く研究されています。
活動: スポーツ、ボランティア、ガーデニング、バードウォッチング、釣り、サーフィンなど、多様な活動が研究対象となっています。
性別: 女性参加者が多い研究には、ガーデニング、コミュニティボランティア、ピックルボール競技、女子フラットトラックダービー、高齢者スポーツクラブ参加などがあります。
SLIMを用いた研究のタイプ
個人中心型研究: SLIMのスコアを用いて参加者をグループに分類する研究。カットオフ値やクラスター分析を用いてグループ分けを行い、グループ間の特性や行動の違いを分析します。
変数中心型研究: SLIMを用いて余暇活動の構成概念を測定し、他の変数との関係を調べる研究。余暇活動への真剣さの程度や、永続的な利益と他の変数(幸福度、生活満足度など)との関連性を分析します。
SLIM変数と関連する変数
先行要因: 余暇活動への真剣さを予測する要因として、スポーツライフスタイル、余暇のアイデンティティ、活動への関与、コミットメント、制約、交渉、自発的動機付け、性格特性などが挙げられています。
結果変数: 余暇活動への真剣さから得られる結果として、活動への積極的な参加、幸福度や生活満足度の向上、学校やボランティア活動への適応、ネガティブな感情の抑制などが報告されています。
媒介変数: 余暇活動への真剣さと結果変数との関係を媒介する要因として、社会的支援や余暇活動からの報酬などが示唆されています。
今後の研究方向
文化や集団による違い: さまざまな集団における余暇活動の経験が普遍的なのか、それとも異なるのかを調べる必要があります。個人の特性(性格特性、人口統計学的属性、動機付けの指向性など)が余暇活動の経験に与える影響を考慮する必要があります。
余暇活動の負の側面: 余暇活動には、依存症、対人関係の葛藤、社会的スティグマ、過剰消費などの負の側面も存在します。これらの負の側面が余暇活動の経験や生活満足度に与える影響を調査する必要があります。
縦断的研究: ほとんどの研究が横断的な調査に基づいているため、因果関係を推論することが困難です。余暇活動の経験の変化や、余暇活動コミュニティにおける個人の役割の変化を捉えるためには、反復測定または縦断的なデザインが必要です。
結論
SLIMは、余暇活動の構成概念を測定し、参加者を分類するための信頼性の高い尺度です。 SLIMを用いた研究は、余暇活動への真剣さが、積極的な余暇活動への参加や、より良い生活の促進に貢献することを示唆しています。今後の研究では、因果関係の検証、個人の特性の考慮、余暇活動の負の側面への注目など、より多角的な視点からの分析が求められます。
補足資料
自分にとっての学び
シリアスレジャー概念を計測する尺度として一般的なSerious Leisure Inventory and Measure (SLIM)を用いた研究について全体像を掴むことができました。補足資料では、具体的な設問も紹介されており、SLIMが計測している概念について具体的なイメージを持つことが可能です。
SLIMを用いた研究は、レジャー、ツーリズム、スポーツなどのタイトルに含んだ学術誌に掲載されていました。私はスポーツという視点でシリアスレジャーを調べていますが、ツーリズムにおいても多くの研究がなされていることが印象的でした。ツーリズム研究はまったくキャッチアップできていないので、今後はもう少し接点を増やせるとスポーツ領域の捉え方も変化していきそうな気がしています。
今後の研究課題として、縦断的研究の不足が挙げられています。会社組織を対象とすることが多い経営学と比較して、趣味の団体や個人を対象とするシリアスレジャー研究は、縦断的研究の難易度が高いように思います。この辺りの研究が実現すると、学術的な価値に繋がりそうなので、1つのアイデアとして温めていこうと思います。