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13-7.第3回目(1月28日)

開港場をめぐる応酬その2

3回目の会談は、1日空けた28日におこなわれました。前回、「開港地問題は熟考を要するので時間をもらいたい」と日本側から申し出があったからです。

冒頭、日本側から口火が切られます。この交渉が始まるまでに貴公を待たせたのも、国の重大事項であるがゆえに、全国の大名に意見を求めねばならず、その意見を待っていたからだと再度説明しつつ、「昨日の件、開港地を増やしていかなればならないことは重々承知している」と前置きし、続けて「さりながら、国内の人心いまだ居合ひ申さず候につき、方今ほうこん一時いっとき大造だいぞうなる商売を取開き候はば、たちま動擾どうじょうを起し候は、必然の事に候あいだ、先づ此の程より申し入れ候手続きを以て、当分相試み、漸々ぜんぜん手馴れ候にしたがひ、なお相開き候様致す可く候」(「近世日本国民史/堀田正睦(四)/徳富蘇峰」Kindle版P240)と述べました。

つまり、急激に開港地を増やし、貿易の規模を大きくすれば、「動擾どうじょう(=騒擾)」が起きることは必然、だからゆっくりと進めたいと言うのです。そして、「商人は、貿易の利によってすぐに打ち解けるだろう。しかし、武家はそうではない。200年来の仕来たりがあって、すぐに打ち解けることはできないのだ。この辺りの事情をよく汲んでほしい」と、説明しました。これは日本側のこの時の胸の内を正直に述べたものでした。

ハリスは、日本側の冒頭のこの説明に「カチン」ときたようです。「今言われたことは理解したが、それは結局他の港を開くことは拒否するということか」と返しました。

「いや、そうではない。人心が折り合うのを待って少しずつ増やしていくということだ。30年、40年人心が折り合わないからといって港を増やさないわけではない」日本側はこう答えます。

ハリスは更に尋ねます。「複数の港を一気に開いてしまえば混乱が起きるという理由からか」。日本側は「そのとおり。国内の事情からである」と返答しました。ハリスは説明します。「それは、誤解だ。条約の発行日は翌年7月4日とは書いたが、それを以って記載の開港場を一気に開くということではない。開港場ごとに開港日は異なって当然で、私の考えとしては開港場ごとにその日付を記入するということ。貴国の事情は理解しているので、年を追って開港すればよい」。

この説明により、日本側は納得、一旦は胸を撫で下ろしたと思いますが、問題は時期だけでなく、開港場所とその数の多さにもあります。

開港場をめぐる応酬その3

ハリスは、要望する開港・開市場を改めて述べます。草案にあった九州での長崎以外の1ヶ所、並びに日本海側の2ヶ所のうち1ヶ所の要望を取り下げ、ここで「江戸・品川・京都・大坂」の4ヶ所の具体の場所を要望したのです。

これに対し、即座に「京都・大坂」の不可なることが述べられます。しかし、ハリスも簡単には引き下がりませんでした。ケンペルやシーボルトの著した本に京都のことが述べられており、彼らが描いた当時との差も当然ありますが、ハリスはそこが市場としてとても有望であると認識していたからです。

一方、日本側は「土地がせまく、商売の地には適していないこと、産物もわずかに織物があるくらい」なのに、なぜ京都を要望するのかを逆にハリスに尋ねてもいます。不思議に思ったのでしょう。

そして、京都の地は「天子の御居所にて、列侯・大臣もみだりに宮中等え参る事相成り難く、もっとも国人神明の如く尊崇を極め候儀にて、大坂は右の近傍きんぼうゆえ、同所の取扱ひ、政府に於て、ことの他致しにくくこれ有り候」(徳富同書P245)として、拒否します。

ハリスは、京都は神聖な場所であることから、その拒否の理由を一旦はわかったとしながら、大坂も拒否されることの理由がわからず、「すべて拒否するのでは、今後の交渉ができない」と言い返しました。

アメリカには下田、箱館の2港が既に開かれており、日本側から、下田を閉じて新たに神奈川という開港場所が提示されています。つまり、日本が確約したのはこの時点でわずかに3港のみであったわけで、ハリスは納得できなかったのです。

おそらく、ハリスは声を荒げたのでしょう、日本側は、「ミニストルを置く件をはじめとして、下田に代わる港を開き、貿易もオランダ・ロシアと同様の条件を、さらに緩和した方法を考えてもいる。すべて許さないわけではない」と述べ、最後に気短きみぢかに申し聞けられ候は、一円いちえん会得えとく相成りかね候」(徳富同書P248)と、ハリスの短気をたしなめています。

「3港のみでは商売できず、利益もあがらない」と続けたハリスに、其方そなたには利を主とし、此方こなたは人心の居合ひを主として候故、何分一決致しかね候」(徳富同書P248)と答えています。まさにこの通りでした。

続く

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