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【東京地検】五輪汚職の実態と波紋…って正直どのくらいありそうか論①【AOKI】

おはようございます。こんにちは。こんばんは。万葉了です。

このnoteでは基本的にその週の国内注目事件や経済の動向などについて取り上げます。

私自身の目標は、なるべくわかりやすく、深すぎない程度に解説をすること。すなわち読者の皆様に「公開時点では当該のニュースについてここさえ読めば最新の段階までキャッチアップでき、読み返すことで友人との日常会話、ビジネス(朝会など)での話題として一通り語れるようになっていただく」ことを目指しています。

初回はAOKI会長らによる五輪汚職事件についてです。贈収賄という行政の腐敗を象徴する罪と、東京五輪という国家の威信がかかった祭典をめぐって行われた不正ということもあり、捜査の進展に注目が集まっています。

ここでは、逮捕前と逮捕直後までの時点で報じられている真相(らしき事柄)、贈賄と収賄という罪、逮捕された五輪委元理事、高橋氏とはどんな人物か、今後の事件の展望について、報道を引用しながら解釈を加えて解説していきます。

捜査と逮捕まで

本題に入る前に留意点があります。一般に「●●氏逮捕」と報じられると、「●●氏が犯人だった!悪いことをしたやつなんだ!」と捉えられがちですが、逮捕というのは刑事事件上の手続きのいち過程に過ぎません。裁判にかけられ(起訴)、有罪判決が出て、有罪判決が確定するまではあくまで「疑いをかけられている者」です。この点については別途noteにまとめようと思いますが、本稿も今後も「あくまで捜査上はこういった見方をされている」ぐらいの受け止め方をしてくださると、ミスリードをせずに済むと思われます。冤罪事件は言うまでもありませんが、有罪になれど実際の事件の筋書きは全然違った、なんてことたくさんありますので。

今回、逮捕されたのは4人。受託収賄の疑いで大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者(78)、贈賄の疑いでAOKIホールディングス社前会長の青木拡憲容疑者(83)ら。青木氏側にはもう2人いますが、今回は「青木氏ら」として表記します。

報道の初出は7月20日付の読売新聞。1面トップでした。

東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の高橋治之元理事(78)が2017年秋以降、自身が代表を務める会社と大会スポンサーだった紳士服大手「AOKIホールディングス」(横浜市)側の間でコンサル契約を結び、AOKI側から4500万円超を受け取っていた疑いがあることが関係者の話でわかった。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20220720-OYT1T50089/

それから1ヵ月弱で4人の逮捕に至ります。


事件の筋書き


東京五輪・パラリンピック大会のスポンサーだった紳士服大手「AOKIホールディングス」(横浜市)側から賄賂計5100万円を受け取ったとして、東京地検特捜部は17日、大会組織委員会の理事だった高橋治之容疑者(78)を受託収賄容疑で逮捕した。

 また、AOKI前会長の青木拡憲 (83)、同社前副会長の青木 宝久(76)、同社専務執行役員・上田 雄久(40)の3容疑者も贈賄容疑で逮捕した。

 発表によると、高橋容疑者は青木拡憲容疑者らから東京五輪・パラのスポンサー契約やライセンス商品の製造・販売契約の締結などで有利な扱いを受けたいという趣旨の依頼を受け、2017年10月~今年3月までの間、五十数回にわたり、AOKI側から、自身が代表を務めるコンサル会社「コモンズ」(東京)の口座に現金計5100万円を入金させた疑い。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20220817-OYT1T50175/

特捜部による事件化の端緒は明示されていませんが、組織委幹部だった高橋氏の会社へ5100万円の入金があり、しかもそれが大会スポンサーだったAOKIによるものだったとなれば「この資金の流れ、おいしい事件の匂いがプンプンするぞ」と色めき立つこと間違いなしです。この資金の移動の発見、特捜部が五輪がらみでの検挙を狙い続けた結果なのか、情報が持ち込まれたのか、想像が膨らみます。

特捜部の事件の筋書きはこうです。
・AOKI側は、東京オリパラのスポンサーになりたく、組織委とのパイプをつくるためには裏金も辞さない姿勢だった
・そこで、組織委理事(みなし公務員)の地位にあった高橋氏に接近。スポンサー契約に便宜を図ってもらえるよう依頼(=請託)
・その際、AOKI側は直接的な資金提供を避けるため、青木前会長の資産管理会社からコモンズへ支払う迂回ルートを採用
・AOKI側はコモンズに月50万~100万円のコンサル料を支払った(=賄賂)

この構図、非常にクラシックな汚職事件といえるでしょう。
強いて言えば迂回ルートの使用が特徴ではあります。これは、AOKI本体からコモンズに振り込むと、コンサル契約の妥当性について株主からツッコミが発生する可能性があったから、という考え方もできそうです。


今後の展望

逮捕前後の双方の供述や認識には食い違いがあります。

青木容疑者は、コンサル料の支払いについて賄賂性は否定する一方、「五輪事業の趣旨もあった」と供述。これに対し、高橋容疑者は「五輪とは関係のないコンサル料だ」と述べ、容疑も否認しているという。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20220820-OYT1T50340/

高橋氏は逮捕前の報道の取材に「悪いことはしていない!」と力む場面もあり、否認で貫こうという強い意志が感じられます。

高橋氏の面会の際にAOKI側が録音したデータがあるそうなので、賄賂性についてはこの会話内容を証拠化できるかが焦点になりそうです。

また、そもそも高橋氏がスポンサー選定にあたってどの程度権限を持っていたか(=職務)という点も重要です。スポンサー選定は電通が主な役割を果たしていた東京オリパラですが、元電通でスポーツ業界に幅広い関係を持っていた敏腕プロデューサーの顔を持つ高橋氏であれば、良きにつけ悪しきにつけ電通と企業の仲介を行えるだけの能力は十分にあると考えられます。

AOKIのケースだけでなく、他の企業の選定にも関与していた事例が見つかれば、特捜部としては高橋氏が公権力を行使したとする論を固める証拠とできそうです。

まとめ

今回のように、贈賄側からの依頼があって賄賂を受け取った場合、単純収賄罪(5年以下の懲役)ではなく、受託収賄罪(7年以下の懲役)が適用されます。ちょっと刑期が長くなります。

特捜部や警察の捜査2課が扱う知能犯事件の中でも、贈収賄は立件がとりわけ難しいとされます。

まず、金品の受け渡しを押さえること。賄賂ってふつうこっそりばれないように渡すものですよね。現金だけでなく、接待や裏口入学なども賄賂に当たりますから、精査が必要です。今回の場合は5100万円というカネがそれにあたります。

しかし、贈賄側はどうしようもないので認めるものの、収賄側は「あれは賄賂じゃなくて会社経営上の正当な報酬だ」などと否定します。収賄罪は『賄賂の収受・要求・約束』を構成要件としています。被疑者が「あれは賄賂じゃなかった」と頑なに認めないまま、証拠不十分で無罪となるケースもあります。

高橋氏側の否認の仕方をみると、おそらく取り調べでも、仮に起訴されて公判に移った場合も、この賄賂性の有無が焦点のひとつになっていくのではないでしょうか。

②では、この事件の影響がどこに波及しそうなのか、それってどんなもんなのか、を書いていこうと思います。


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