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甘いものがなくても作業はできた

 大学生のとき、つねに一緒に行動するわけじゃないものの、そこそこ気の合う友人がいた。Aちゃんとしておく。Aちゃんはわたしと同じ学部・学科で、かなり賢い女の子だった。

 大学3年~4年になると否応なしに将来のことを考えなければならなくなる。わたしは外部院進を、Aちゃんは就活をすることをきめていた。彼女は心配症でなおかつ完璧主義な女の子だったので、早期からインターンなどに励んでいた。

 そんなわたしたちは、よくスタバでPCを広げ、一緒に作業をしていた。いつも彼女の方から誘ってくれた。彼女とわたしはいつも、ゆずシトラス&ティーという邪道チョイスをする。わたしは甘い物が苦手で、彼女は乳製品が苦手だったからだ。

 彼女はいつも、就活のための自己分析や、授業の課題をしていた。わたしはいつも、大学院入試のための勉強をしていた。たまにお互いの恋人の話をしたりして、2回に1回はチョコレートチャンクスコーンが間に置かれたりもした。

 わたしたちはドリンクひとつで何時間も滞在する、迷惑なタイプの客だったろうと思う。たまにSNSでスタバで勉強するな云々、みたいな論争が繰り広げられることがあるが、スタバ自体がそういった行為に受容的で、値段を上げる代わりにゆっくりできる空間を提供するというコンセプトで店を展開しているのであれば別にいいだろうと傲慢になってみたりもしていた。だってみんな、パソコン広げてかちゃかちゃやってたからさ。

 そんなわけでわたしとAちゃんは、大学3年の夏から大学4年の春(つまり、彼女が就活を終えるまで)の間、定期的に作業をするという名目で、おしゃべりをしていたのだ(もちろん半分以上は黙って作業をしていたと思うが)。彼女の就活が終わるとわたしたちの会合はフェードアウトした。就活を終えて作業をする理由のない彼女を誘う勇気はなかった。それにわたしたちは、スタバ以外の場所で会うことはほとんどなかった。

 彼女と最後に会ったのは大学の卒業式のときだ。わたしが学科首席で卒業したという話は前にもしたけれど、卒業式では次席の学生も表彰される。彼女は次席だった。スタバでこそこそと日常の愚痴を垂れ流しながら、院試の地獄と就活の地獄を共有しながら泥の中でもがき続けたわたしたちは、100人以上の学生がいる学科で首席と次席を独占したのだ。記念品としてもらった謎のボールペンはもちろん彼女とお揃いだけど、一度も使っていない。

 その後、彼女とは会っていない。住んでいる場所は別に遠くないのに、理由がないと誘いづらい。それにお互いに環境が変わっているので、話が合わなかったらどうしようと勝手に恐れてしまっている。できれば、あのときの記憶をそのまま保存したいと思ってしまう。

 わたしは今でも頻繁にスタバに訪れる。わたしはいまだに、ゆずシトラス&ティーしか飲むことができない。



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