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おすすめ本『橋ものがたり』藤沢周平
時代小説って古くさい、おじさんが読むものってイメージありませんか。今日はそんな方にこそおすすめしたい一冊を紹介します。
藤沢周平『橋ものがたり』(新潮社)。
江戸時代に生きる市井の人々(下は十才の少年から上は初老の男性まで)を主人公にした短編小説集。タイトルにある橋は江戸時代の人々にとって町と町を区切る境を表し、人々はそこで出会い、別れます。
僕が個人的に好きな作品は『約束』『小ぬか雨』『殺すな』の三編。それぞれ簡単にあらすじを紹介します。
『約束』
錺職人見習いの若い幸助には、お蝶という幼なじみがいた。しかし、幸助には一人前の職人になるという目標があり、お蝶は、実家の貧窮により働きに出ることが決まっていた。二人は5年後に萬年橋の橋の上で会う約束をするが・・・。
『小ぬか雨』
結婚が決まっているおすみのもとに、ある日、新七という若者が逃げ込んできた。新七は、わけあって人を殺して逃げている途中だった。おすみは新七に同情し、生活の世話をするうちに惹かれていくが…。
『殺すな』
船頭をしている吉蔵は、かつて職場のおかみであるお峯と駆け落ちをした。数年は幸せに暮らす二人だったが、その日暮らしの生活に不安を覚えるお峯は、昔の旦那のところに戻りたいとほのめかすようになる。吉蔵は長屋の浪人、善左エ門に相談をするが、彼にも心に秘めている暗い過去があった。
短編集なので、物語はグッドエンドもバッドエンドもあります。でも藤沢周平の描く登場人物はたとえ悲しい結末でも、希望や生きる意志を最後まで失いません。愛する人と別れても、孤独になったとしても、背筋を伸ばして生きようとします。だから不思議と後味がいい。
文章も非常に上品です。特に、余韻を残すラストシーンを描くのが抜群にうまい。
作者の藤沢周平はよく「普通が一番幸せだ」と言っています。彼は若いころ結核になり、自分がやりたかった仕事を諦め、結婚したあとも数年で奥さんを病気で亡くしています。小説家として世に出たのも40才を過ぎてからでした。普通に生きることの難しさを知ってるからこその言葉なんですね。
そして、江戸時代を舞台にしてるからこそ、1980年代に出版されたたものでありながら古さを感じません。きっとこれから数十年先も読みつがれる名作だと思います。