ピアノロールで学ぶ初歩の音楽理論とボカロ作曲講座
第一章 はじめに
ボカロ曲の作曲とは
2007年に初音ミクが登場して約17年がたち、ボーカロイドをはじめとする様々な音声合成ソフトを使った楽曲(ここではボカロ曲と呼ぶことにします)は一般的になってきました。しかしその楽曲の親しみやすさとは逆に、実際に作ろうとすると、かなりの知識や経験と予算が必要となります。それは単純に、ボカロ曲と言っても普通の楽曲であり、それを作る作業は普通に曲を作る手順と同じだからです。例えば、とりあえず違和感なく聞けるようなボカロ曲を作るには、適当に音を置くのではなく初歩の音楽理論などが必要になってきます。
そこでこの記事では、最低限の音楽理論の解説のあと、その知識を使ってボカロ曲1曲全体を制作してみる流れを詳しく説明していきたいと思います。曲作りのちょっとしたコツなども色々と紹介していますので、最後までお読み頂ければ、オリジナルのボカロ曲を作る実力が身につくでしょう。また、曲が完成した後の説明で、追加の音楽理論も少し解説しています。
解説中で使用する楽曲制作用ソフトはDigital Performer、また、音声合成ソフトとしては、初音ミクV3とSynthesizer V AI Maiを使用します。なお、この記事の対象は、各自の制作環境で楽曲制作ソフトとボカロソフト(具体的なソフト名は問いません)の使用法をマスターしている方向けで、個別のソフトの具体的な操作方法については省略しますのでご注意ください。
また、記事中の各画像に関してはクリックすると拡大でき、YouTube動画に関しては、高画質設定にして再生していただければ細部までご確認頂けます(全画面表示にしても分かりやすいでしょう)。
Synthesizer V AI Maiについて
Synthesizer V Studio Proを購入後に、メーカーのサイトでユーザー登録すれば無料でもらえるライブラリです。
入力すれば特に調整しなくてもかなり人間っぽく歌ってくれますので、これからボカロ曲を作る方にもオススメできると思います。追加で別のライブラリは特に買わなくていいくらいのクオリティーです。もちろん自分の思い入れのあるボカロがあれば、やる気が出ますのでそれを使うのが良いと思います。
(「真夏の夢」 第十章で解説する短調の曲です。)
初音ミクもプラグインなのでSynthesizer Vとの共演も簡単にできます。技術的にはSynthesizer Vの声の方がリアルで情感が出ていますが、初音ミクの独特な歌声も一つの世界を確立しています(これはV3です)。
サンプル曲「It's a sunny day」の紹介
第四章以降で制作していくオリジナルのサンプル曲「It's a sunny day」です。Synthesizer V AI Maiと初音ミクのツインボーカルです。この曲をゼロから最後まで制作していく流れを解説します。なお、巻末の付録として、演奏データが入ったMIDIファイルも配布しています。
第二章 初歩の音楽理論
鍵盤のドレミファソラシドの場所
ではまず最初に、ドレミファソラシドの場所を表しておきます。実際には必ずしもここでなければならないというわけではないのですが、一般的に思いつくのはこういう場所でしょう。黒い鍵盤が2つ、3つ、と規則的に並んでいて、2つ並んでいる方の左側の黒い鍵盤のすぐ左が”ド”になります。左から右に行くに従って音程が高くなり、低いドから高いドまで行けば、また高い音でドレミファソラシドが続いていきます。ちなみに、ある音から同じ名前の次の音までの距離を1オクターブといい、例えば1オクターブ上のド、2オクターブ下のソ、音を全体的に1オクターブ上げる、みたいに使います。
ピアノの鍵盤とピアノロールについて
さて、ピアノやキーボードの鍵盤の見た目から想像される音の間隔にはズレがあります。例えばピアノの鍵盤で見ると、ドとレの音の間隔とミとファの音の間隔は一見同じように見えますが、実際の音程の距離というのは、ミとファの距離はドとレの距離の半分しかありません。
しかし、初歩の音楽理論では、音どうしの音程の間隔というのが大変重要になってきますので、ピアノの鍵盤に向き合っただけでは直感的に理解しにくい場合もあると思います。
そこで、特に最初は分かりにくいこういった部分を解決し、見た目にも分かりやすく音楽理論を理解できるのが、DAW(楽曲制作用ソフト)でよく使われる作業画面のピアノロールです。ピアノロールには左端にピアノの鍵盤がありますが、その鍵盤が並ぶ幅は、実際の音程の距離を正しく示すような仕組みになっています。もちろん作曲に使うのが本来の使い方ですが、音楽理論を考える場合にも大変便利なツールです。解説中で使用しているDAWはDigital Performerですが、お使いのDAWのピアノロールで音を入力してみれば、理解が深まるでしょう。MIDIキーボードなども接続して使えた方が望ましいです(小型のミニ鍵盤タイプなどでも十分です)。
(参考)ピアノロールの操作性について
GarageBandのピアノロールだと縦の倍率が変更できないようですが、多くのDAWでは縦の幅も自由に調節でき、その方が作業が楽な場合もありますので、GarageBandで物足りないようであれば他のDAWを検討するのも良いでしょう。
ピアノロールで理解するピアノの鍵盤の仕組み
ピアノの鍵盤をピアノロールで表した形を注意して見ると、ピアノの鍵盤の音程に関しての事実がわかってきます。それは、ピアノの鍵盤の白鍵と黒鍵を一列に並べれば、隣同士の音は常に半音違う、ということです。ここをしっかりと理解しておけば、ピアノで音楽理論を考えることは大変スムーズになります。
ピアノの鍵盤の音程について説明したことを具体的にピアノロールで見てみると、下のようになります。
このピアノロール画面を見ると、ドから2つ上がればレになるのに対して、ミからは1つ上がっただけでファになります。この1つ分の幅を半音と言い、2つ分で全音と言います。ドとレの間には黒い鍵盤が一つ挟まっていて、ミとファの間には何もないので、この違いが生まれるわけです。初歩の音楽理論では、このような音同士の距離というのが重要になってきます。
では次に、ピアノロールにドレミファソラシドと入力してみます。
ここでまた音の距離に注目してみると、ドレ、レミ、ファソ、ソラ、ラシ、の音の間隔は半音2つ分(=全音)あるのに対して、ミとファ、シとド、の音の間隔は半音1つしかないのが分かります。
ここで実験をしてみます。これらの音を全部選択して、適当に上に動かして置き直します。例えば下の図のように、ドの音を、ファ、のところまで上げてみましょう。
この状態でDAWを再生して聞いてみても(あるいは鍵盤を弾いてみても)、ドレミファソラシドと聞こえると思います(絶対音感を持っている人以外は)。
つまり、どの音から始めても、音の間隔さえルールに従っていればドレミファソラシドが作れるということです。この現象は、カラオケでキーを上げたり下げたりしたことがあれば、その作業と同じですので、よく実感できるでしょう。そして、すでに書きましたが、どの音からドレミファソラシドを始めるかというのが、カラオケでも出てくる”キー”という概念です。
最初のようにCからドレミファソラシドが始まっていればキーはC、上の画像のようにFからドレミファソラシドが始まっていればキーはFということになります。
音名と階名
ここまでの内容でお分かりのように、ドレミファソラシドという音の名前は自由に移動して考えることができ、これを”階名”と言います。これに対して、DAWのピアノロールなどに書いてあるC、D、E、、、などの文字はその音に固定されていて、これを”音名”と言います。日本語でも音名を表すやり方があり、それがハニホヘトイロハ、です(ハ長調、などで使うカタカナです)。
また、だいだいのDAWのピアノロールにはC3みたいに音名の後に数字が書いてありますが、それは音の高さを区別するための数字(それがないと、Cの場所といっても一つに決まらないので)です。
動作チェック用MIDIファイル
最後に配布しているMIDIファイルの動作チェック用に用意した、サンプル曲の1番AメロまでのMIDIファイルです。演奏データだけですので、聞くためには各自の環境で各トラックに適当な音源を割り当て、音量バランスなどを調節する必要があります。また、使用する音源によってはオクターブを調節した方が良い場合もあります。ボーカルのメロディーのトラックもありますが、ボカロのデータは含まれていません。なお、教材としての公開ですので、私的利用の範囲でご活用下さい。
(※第三章以降は有料記事となります)
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