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君が君であると知る前に~後編~

この物語は続編です。
よければ先にこちらをお読みください。


結婚してから数年が経った。

○○と理佐は、お互いに仕事をしながら、穏やかで心地よい日々を送っていた。

最初は慣れないことも多かった。
朝のコーヒーの好み、洗濯物の干し方、休みの日の過ごし方──些細なことで衝突することもあったけれど、結局のところ二人はお互いを尊重し合いながら、少しずつ「夫婦」としての形を作っていった。

ある休日の朝、○○はいつも通り目を覚まし、隣で眠る理佐の寝顔を見つめた。

相変わらず、朝は苦手らしい。

○○:おい、そろそろ起きろよ

理佐:ん……あと、5分……

○○:何回目の5分だよ

理佐は布団の中でごそごそと動くが、結局起きようとしない。

○○はため息をつきながら、キッチンに向かい、コーヒーを淹れた。
しばらくすると、ようやく理佐が眠そうな顔で起きてくる。

理佐:……コーヒー、ある?

○○:ほら

理佐はマグカップを受け取り、一口飲んで「んー……」と少しだけ笑った。

理佐:これがないと始まらないんだよね

○○:知ってる

こういう何気ないやりとりが、○○にとっては幸せだった。

ある日、理佐が真剣な表情で○○に話しかけた。

理佐:ねえ、○○

○○:ん?

理佐:……子ども、欲しいって思ったことある?

○○は少し驚いた。

結婚したとき、お互いに「いつかは」と思っていたけれど、具体的に話したことはなかった。

○○:……理佐は?

理佐:私は……最近、考えるようになった

○○:そっか……

○○は理佐の手を優しく握った。

○○:おれは、理佐と一緒なら、どんな未来でも楽しみだよ

理佐は少し照れくさそうにしながらも、どこか安心したように微笑んだ。

──そして、それからしばらくして。

理佐:○○、ちょっと座って

○○:ん? なんか改まってるな

理佐は深呼吸して、少しだけ照れくさそうに言った。

理佐:……赤ちゃん、できた

○○は一瞬、頭が真っ白になった。

○○:……え?

理佐:だから、私たちの子、できたって言ってんの

○○は理佐のお腹にそっと手を当てた。

○○:……本当に?

理佐は静かに頷いた。

○○はゆっくりと、理佐のお腹に耳を当てる。

まだ何も聞こえないけれど、確かにそこには、小さな命が宿っている。

○○:……そっか

理佐:びっくりした?

○○:当たり前だろ。でも……めちゃくちゃ嬉しい

○○は理佐の手をぎゅっと握った。

理佐:……私も

それからの数ヶ月は、あっという間だった。

理佐のお腹が少しずつ大きくなっていくのを見ながら、○○は新しい生活の準備を進めた。

ベビーベッドを買ったり、赤ちゃん用の服を選んだり──今まで経験したことのないことばかりだったが、それでも二人で一つずつ、未来を形にしていった。

ある日、○○が何気なく言った。

○○:名前、考えたんだ

理佐:へぇ、どんな?

○○:『天』ってどうかな

理佐は少し考えて、それから優しく微笑んだ。

理佐:……いいね

○○:空みたいに広くて、どこまでも自由で、でもちゃんと人を包み込める、そんな子になってほしい

理佐はその言葉を聞いて、そっと○○の手を握った。

理佐:きっと、素敵な子になるよ

そして、ついにその日が来た。

理佐の陣痛が始まり、○○は病院へ付き添った。

長い時間の末、赤ちゃんの産声が響いたとき、○○は思わず涙ぐんでしまった。

──俺たちの子どもが、生まれたんだ。

理佐は疲れ果てていたが、それでも笑顔で赤ちゃんを見つめた。

理佐:○○、抱っこする?

○○はそっと、小さな命を腕に抱いた。

○○:……天

○○は静かに名前を呼んだ。

この小さな存在が、自分たちの未来なんだと思うと、胸がいっぱいになった。

理佐も、隣で優しく微笑んでいた。

天が生まれてから、生活は一変した。

夜泣きで何度も起こされるし、ミルクをあげたりオムツを替えたり、慌ただしい日々が続いた。

それでも、○○は理佐と一緒に、ひとつひとつ乗り越えていった。

ある日、公園で天と一緒に遊んでいると、○○はふと理佐を見つめた。

○○:お前さ、昔はあんな風にボール蹴ってたよな

理佐:んー? そうだっけ?

○○:そうだよ。理佐、めちゃくちゃ負けず嫌いだったし

理佐:今も負けず嫌いだけど?

○○:……まあ、確かにな

二人で笑い合う。

天が無邪気にボールを追いかける姿を見ながら、○○は改めて思った。

俺は、理佐と結婚してよかった。



そして、今ここにある幸せを、ずっと守っていこうと思った。

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