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仮装に隠した本心
コスプレイベントの会場は、まるで異世界のように煌びやかだった。色とりどりの衣装に身を包んだ参加者たちが、思い思いにポーズを取り、好きなキャラクターになりきっている。○○もその一人で、今回の衣装は黒い天使。大きな黒い翼を背負い、黒い服と仮面でダークな雰囲気を纏っていた。
そんな彼の視線を、ふと白い光が奪った。純白のドレスに身を包み、背中に美しい白い翼を付けた女性が、会場の中央に佇んでいる。まるで天使が降臨したかのような姿に、○○は思わず目を奪われた。
その女性は、森田ひかるという名前だった。
彼女が周囲の視線を受け止めながらも、どこか儚げな表情を浮かべているのが印象的だった。彼も、他の参加者と同様に彼女を見つめていると、不意に彼女と目が合った。
森田:こんにちは
彼女は柔らかく微笑みながら、○○に向かって挨拶をした。その声は静かな会場の喧騒の中でも、はっきりと耳に届いた。
○○:こ、こんにちは!…すごく、素敵なコスプレですね
彼は照れくさそうに返事をした。普段の自分ならこんな風に見知らぬ人に声をかけられないが、彼女の白い翼と天使のような姿が、彼に不思議な勇気を与えたのかもしれない。
森田:ありがとう。あなたも、とても素敵。黒い天使のコスプレ、すごく似合ってる
ひかるの口元に微笑みが浮かぶ。その微笑みに、○○は心臓が早鐘を打つような感覚を覚えた。こんなに近くで彼女に見つめられるなんて、予想もしていなかったからだ。
○○:えっと…実は、天使のコスプレをした人と一緒に写真を撮りたいなって思ってたんです。でも、まさか本物の天使みたいな人がいるとは…
彼が少し冗談めかして言うと、ひかるは頬を少し赤らめ、微かに笑った。その笑顔は、まるで彼女の中に隠れている人間らしい親しみやすさを感じさせた。
森田:ふふ、それなら一緒に撮りましょうか?
○○:え、本当に?
○○の声が少し大きくなり、彼女は小さく頷いた。
ふたりは並んでカメラの前に立った。○○が緊張で体を固くしていると、ひかるが小さく囁いた。
森田:リラックスして、大丈夫。せっかくのイベントなんだから、楽しもう?
その一言で、○○は少し緊張が解けた。ふたりは白と黒の天使が並び立つ姿で、様々なポーズをとった。まるで対照的な存在が、ひとつの絵画として調和しているかのようだった。
撮影が終わり、ふたりは少し距離をとりながら会話を続けた。
○○:どうして天使のコスプレにしたんですか?
森田:天使のコスプレ、憧れてたの。普段はこんな格好できないけど、イベントなら思い切ってなりきれるから。○○さんは、どうして黒い天使?
○○:僕も普段とは違う自分になれるのが楽しくて。それに、白い天使と黒い天使が並ぶって、なんだか絵になると思って
森田:うん、たしかに。正反対の存在みたいだけど、並んでみるとしっくりくるね
ふたりはお互いの衣装やコスプレの話で盛り上がり、夢中で話し込んでいた。コスプレを通じて出会えたからこそ、普段なら話せないような自分の内面を自然にさらけ出せる気がしていた。
その後もふたりは会場内を一緒に回りながら、他のコスプレイヤーたちと写真を撮ったり、会話を楽しんだりしていた。ふと○○は、次に会う機会についての提案をしたくなった。
○○:ひかるさん、もし次のイベントでも会えたら、ペアで何かコスプレしませんか?
彼の言葉に、ひかるは驚いた表情を見せたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
森田:それ、いいね。どんなキャラクターがいいかな?
○○:何かペアでできるキャラクターがあればいいね。お互いに似合いそうなものを探そうか
ふたりは次のイベントでのコスプレについて、意気投合しながら話し合った。そしてその場で連絡先を交換し、次に会う約束を交わした。
数週間後、待ちに待った次のイベント当日がやってきた。○○は少し緊張しながら会場でひかるを待っていた。ひかると一緒に考えたペアコスプレを実現させるという特別な思いを胸に、しっかりと衣装を整えてきたのだ。
やがて、会場の向こうから白と黒のコスチュームを纏ったひかるが現れた。今回のテーマはファンタジーの魔王と聖女。彼女の姿はどこか神聖で、○○が演じる魔王の闇と対照的でありながらも、その存在が彼の隣にあることで、一層輝きを放っていた。
○○:ひかるさん、すごく似合ってる。本当に…ぴったりだよ
森田:ありがとう。あなたもかっこいいよ。魔王と聖女って、対照的だけど、なんだか一緒にいると安心するね
ふたりは再びカメラの前に立ち、魔王と聖女のペアで様々なポーズを取った。今回のイベントでは前回よりも多くの人々が彼らに注目し、その姿がたくさんのカメラに収められていった。
撮影が一段落したところで、○○は少し離れた場所でひかるに話しかけた。
○○:こうやって一緒にコスプレするの、本当に楽しいね
森田:うん、私も同じ。あなたといると、どんなキャラクターになっても自然と演じられる気がする
彼の言葉に、ひかるは優しく微笑んだ。その瞬間、○○はふと勇気を出して尋ねてみた。
○○:ひかるさん、もしよかったら、イベントの外でも…また会えないかな?
その言葉にひかるは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに頬を赤らめて、ゆっくりと頷いた。
森田:うん、私も会いたい。また一緒に楽しいこと、したいな
それからふたりは、イベントのたびにペアコスプレを楽しむようになり、少しずつコスプレ以外の場所でも交流を深めていった。映画館でのデートやカフェでの会話、そして何気ない日常の中でも、お互いに新しい一面を発見し合うような時間が増えていった。
ひかると一緒にいると、○○はいつも以上に自分を素直に表現できた。ひかるもまた、○○といるときにはいつもより自然体でいられるのだと、彼に打ち明けてくれた。ふたりはコスプレの仲間から、一緒に過ごす特別な相手へと関係が変わっていった。
そんなある日、次のコスプレイベントの話をしながら、ひかるが少し照れくさそうに言った。
森田:今度のイベントで、もしよかったら…あなたと一緒に、カップルコスプレしてみたいなって思ってるの
○○:カップル…コスプレ?
彼は驚いたが、内心嬉しくて顔がほころんだ。ひかるからそんな提案があるなんて、夢にも思っていなかったからだ。
森田:うん。あなたとなら、きっと素敵なペアになれると思うの。…もし嫌じゃなければ
○○:もちろん、喜んで!
その言葉に、ひかるは安心したように微笑んだ。ふたりはさっそく、次のイベントでどんなキャラクターを演じるか話し合い、準備を進めていった。イベントまでの間、何度も衣装合わせやポーズの練習を重ねるうちに、ふたりの距離はますます縮まっていった。
迎えたイベント当日、ふたりは人気のファンタジー作品のカップルキャラクターに扮して会場に姿を現した。お互いを見つめ合うその様子は、まるで物語の中の恋人同士のようで、多くのカメラマンや参加者たちが写真を撮りにやって来た。
イベントが終わるころ、○○は思い切ってひかるに声をかけた。
○○:ひかるさん、今日のイベントが終わっても、僕とまた一緒にいたいです。これからも、ずっと一緒に
森田:…○○さん
ひかるは少し涙ぐんだように目を輝かせ、しばらく何も言わずに彼を見つめていた。しかし、やがて彼女は深く頷き、微笑んだ。
森田:私も同じ気持ちだよ。あなたとなら、これからも一緒にいられる。ずっと、一緒に
その日、ふたりは新しい関係を築くことを決意した。コスプレを通じて出会い、共に過ごす時間を通して育んできた絆は、コスプレだけでなく、ふたりの日常にまで根を張り始めていた。
それからというもの、ふたりはコスプレイベントだけでなく、普段の生活でも支え合い、共に成長していった。イベントのたびにペアのコスプレを楽しみ、周りからは「理想のカップル」と呼ばれることも増えた。ふたりにとって、コスプレは単なる趣味を超え、互いを結びつける大切な絆となっていた。
やがて、ひかるは○○の前でこう言った。
森田:いつか、私たちが老いても一緒にコスプレして、思い出を重ねていけたらいいね
○○:もちろん。ひかるさんとなら、どんな姿でも楽しく過ごせる。これからも、ずっと一緒にいよう
ふたりは微笑み合い、手を取り合った。コスプレを通じて出会い、互いの存在を見つけたふたりは、これからも共に歩んでいく決意を新たにした。コスプレの世界だけでなく、現実の世界でも支え合い、幸せを分かち合う関係を築きながら。
ふたりの物語は、終わりを迎えながらも、新たな始まりを予感させるものだった。