青春の決断
秋の放課後、教室には帰宅部の〇〇とバレー部の小坂菜緒だけが残っていた。菜緒はバレーの練習を終えて帰ろうとしていたが、まだ教室に残っていた〇〇を見つけると、彼に声をかけた。
菜緒:あれ、まだおったん?今日もバレーの練習見にくる?
菜緒は、汗ばんだまま明るく笑う。彼女はバレー部のエースで、その活躍ぶりは誰もが知るところだった。〇〇も彼女の試合を見たことがあり、その真剣な姿に惹かれていた。
〇〇:いや、今日は…ちょっと考え事があってな。
〇〇の答えに、菜緒は不思議そうな顔をして近づいた。
菜緒:何かあったん?あんたが考え込むなんて珍しいやん。
その時、別の声が教室の外から聞こえてきた。バスケ部の練習を終えた渡邉美穂が、疲れた様子で教室に入ってきた。
美穂:お、まだ帰ってなかったんだ。〇〇、一緒に帰ろうよ。今日はめっちゃハードだったし、家まで送ってほしいくらい。
美穂はクタクタになりながらも、明るい笑顔を見せる。彼女もまた、〇〇にとって大切な友達だった。バスケ部のエースで、芯の強い彼女の姿は、〇〇にとっても憧れの存在だった。
〇〇は、二人の顔を見比べた。菜緒の笑顔も、美穂の疲れた表情も、どちらも彼にとって特別だった。けれど、最近になって、その特別さが変わりつつあることに気づいていた。
美穂:〇〇、行こ。帰ろ?
菜緒:あんた、バレーの練習見に来ぇへんの?今日はええ感じやで!
〇〇は二人に挟まれ、どう返答していいか分からず、困ったように笑った。結局、二人と一緒に帰ることになったが、〇〇の心の中は、揺れ動いていた。
数日後の体育館。バレー部の練習が白熱する中、〇〇は観客席でその様子を見守っていた。菜緒はチームの中心で、次々とスパイクを決め、汗だくになりながらも輝いていた。
〇〇:すごいな…。
彼がつぶやいたその瞬間、隣に座っていた美穂が静かに口を開いた。
美穂:菜緒、ほんとにすごいよね。いつも全力で、まっすぐで…。私もあんな風に頑張らなきゃって、ずっと思ってた。
〇〇は、美穂がこんな風に他人を褒めるのは珍しいことだと思った。美穂はいつも自分を抑えて冷静でいようとするタイプだったからだ。
美穂:ねぇ、〇〇。私…ずっと、〇〇のことが好きだった。
〇〇は突然の告白に驚いた。美穂の瞳はまっすぐ〇〇を見つめ、彼の答えを待っている。だが、言葉を発する前に、体育館のドアが開き、菜緒が練習を終えてやってきた。
菜緒:〇〇!練習見てたん?めっちゃええ感じやったやろ?
〇〇は二人の対比に戸惑った。美穂の真剣な告白と、菜緒の無邪気な笑顔。その瞬間、彼の心は大きく揺さぶられていた。
秋が深まるとともに、〇〇の心も次第に定まっていった。ある日、彼は意を決して美穂を呼び出し、彼女の気持ちに答えを出すことにした。
〇〇:美穂…ごめん。俺は菜緒のことが好きなんだ。
美穂は一瞬、表情を曇らせたが、すぐに微笑んだ。
美穂:そっか。うん、分かってた。…でも、ありがとう。ちゃんと伝えてくれて。
彼女の笑顔には強さがあった。だが、隠しきれない涙が瞳に浮かんでいたのを、〇〇は見逃さなかった。
次に〇〇は、菜緒を呼び出した。彼女もまた、〇〇の真剣な表情に気づき、何かを察していたようだった。
菜緒:…どないしたん?
〇〇は深呼吸をして、菜緒に向かって言葉を放った。
〇〇:俺、菜緒のことが好きだ。付き合ってほしい。
菜緒は驚いたような顔をしたが、すぐに柔らかい笑顔を浮かべた。
菜緒:ほんまに?…そっか。嬉しいわ。
菜緒の笑顔は、〇〇の心を一瞬で軽くした。けれど、心のどこかで美穂のことを思い出さずにはいられなかった。
それから少しずつ、〇〇と菜緒は付き合い始めたが、美穂との距離が微妙に変わっていくのを〇〇は感じていた。美穂は、あれからも友達として接してくれていたが、どこか無理をしているような部分があった。
そして、冬が近づくころ、美穂はひとつの決断を下した。
美穂:私ね、来年からもっとバスケに集中しようと思う。全国大会目指すんだ。だから…もう、〇〇に振り回されないようにする。
彼女の強さと決意に、〇〇は何も言えなかった。美穂の心の中にあった恋は、静かに幕を閉じた。
〇〇が選んだのは菜緒だった。けれど、美穂が心に秘めた想いと、その失恋の痛みは、〇〇にとって忘れられないものとなった。青春の中で揺れ動く恋心と友情。そのどちらも、大切な時間だったと〇〇は後に振り返ることだろう。