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キックオフ:君との試合が始まる

影山優佳は、幼い頃からサッカーに夢中だった。彼女にとって、サッカーは単なる趣味を超えた存在。毎週末に行われる試合はもちろん、ヨーロッパのリーグ戦やCLがある日には、夜遅くまでテレビの前にかじりついて観戦することも珍しくなかった。だが、その情熱の裏に、彼女が持つもう一つの大きな才能があった。優佳は、誰もが認めるほどの頭脳を持ち、職場でも常に優秀な結果を出していた。

そんな彼女の幼なじみであり、同じ会社で働く○○は、彼女がサッカーに対して抱く強い情熱をよく知っていた。学生時代からずっと一緒に過ごしてきた二人は、まるで兄妹のような関係だったが、○○の中ではそれ以上の想いが日に日に強まっていた。

ある金曜日の朝、オフィスに入るとすぐに○○は優佳がいつも座っている席を見た。そこには、少し寝不足気味の優佳がいた。彼女の目元には若干のクマが見えるものの、笑顔はいつも通りだ。

○○:昨日、また夜更かししてサッカー見てたの?

優佳:うん、だってパリ・サンジェルマンとマンチェスター・シティの試合だったんだよ?見逃せるわけないでしょ。

彼女は少しあざとく、甘えるような表情を浮かべて笑った。○○は心の中で、彼女のその笑顔に少し動揺しながらも、落ち着いた声で言った。

○○:寝不足で仕事に支障が出ないようにね。

優佳:大丈夫だって。私は寝不足でもちゃんと結果を出せるタイプなんだから。

その言葉通り、優佳は仕事に関しても抜群の能力を発揮していた。今日もプレゼン資料を完璧にまとめ、クライアントとの会議では誰もが納得する説明を行っていた。その姿を見ながら、○○は改めて彼女の凄さを感じていた。

その夜、○○は優佳を食事に誘った。特に特別な理由はなかったが、ただ彼女と一緒にいたいという気持ちが自然と芽生えたからだ。二人は近くのイタリアンレストランで夕食をとることになった。

○○:優佳って、ほんとサッカー好きだよね。

優佳:うん、大好き。最近はプレミアリーグばっかり観てるけど、バルセロナもチェックしてるよ。クラシコとか絶対外せないし、今シーズンはレアル・マドリードも好調だしね。

○○はサッカーについてはそれなりに知識はあるものの、優佳ほど熱心に追いかけているわけではなかった。それでも、彼女が楽しそうに話す姿を見ると、彼も自然と興味が湧いてきた。

○○:どっちが好きなの?バルサとレアル。

優佳:んー、難しい質問だね。でも、ティキタカスタイルのバルサがやっぱり一番好きかな。あのパス回しは他のチームには真似できないし、試合を見てると芸術みたいで感動するんだ。

○○はその言葉を聞いて、彼女がどれほどサッカーに心を奪われているかを改めて実感した。


食事を終え、二人は夜風に当たりながら歩いていた。いつものようにサッカーの話題で盛り上がる優佳とは裏腹に、○○の胸にはある決意が渦巻いていた。

彼は、もう一歩踏み出すタイミングを探していた。幼なじみという関係に甘んじるのではなく、彼女に自分の気持ちを伝えたい――そう思っていたが、なかなかその一言が出てこなかった。

○○:ねぇ、優佳。ちょっと聞いてくれ。

優佳:ん?どうしたの?

○○:俺たち、もうずっと幼なじみとして一緒にいるけど…そろそろ新しい試合を始めたいんだ。サッカーで言うとキックオフみたいに、俺たちも何か新しい一歩を踏み出さない?

彼の言葉に優佳は立ち止まった。いつもは冗談半分で返してくる彼女が、真剣な表情で○○を見つめる。

優佳:…新しい試合、か。

○○:そう。俺はずっと優佳のことを見てきた。サッカーのことを話す優佳も、仕事で活躍する優佳も全部知ってるし、何よりも一緒にいるとホッとする。でも、俺はもっと優佳と近づきたい。友達以上の関係に。

その瞬間、優佳の表情は少しだけ柔らかくなった。

優佳:○○、私…ずっとサッカーに夢中だったから、こういう話ってあんまり考えたことがなかった。でも、今こうして○○が話してくれて、少しだけ思ったんだ。サッカーの試合みたいに、タイミングが重要なんだって。オフサイドにならないようにね。

彼女は微笑みながら、少しだけ照れた表情を見せた。

○○:それなら、俺たちもティキタカみたいに、お互いの気持ちをしっかりパスし合って、少しずつ進めばいいんじゃないか?

優佳:ふふ、○○らしいね。でも…悪くない提案だと思う。

彼女はそう言いながら、彼の肩を軽く叩いた。○○の心は急に軽くなり、二人の間に流れる空気は確かに変わり始めていた。

その後、二人は徐々に新しい関係を築いていった。優佳は相変わらずサッカーに熱中していたが、○○も彼女と一緒に観戦する時間を楽しむようになった。

彼女が好きなチーム、リヴァプールやドルトムントの試合を観ながら、二人は少しずつ距離を縮めていった。

優佳:ほら、ここでサラーが走り込んでくる!リヴァプールはこういうカウンターが得意なんだよね。

○○:本当に詳しいよね、優佳。サッカー解説者になれるんじゃない?

優佳:そんなの無理だよ、でも、ありがと。

そんな何気ない会話が、二人にとって何よりも大切な時間となった。

そして、ある日。○○は決心を固めて優佳に伝えた。

○○:優佳、俺たちもそろそろゴールを決めよう。

優佳:え?ゴール?

○○:俺たちの関係が、ちゃんと形になるように。キックオフして、そろそろ試合の結果を出さない?

彼の真剣な言葉に、優佳はしばらく黙っていたが、やがて静かに微笑んだ。

優佳:うん、そうだね。○○となら、きっといい試合ができると思うよ。

その瞬間、二人の新しい試合が始まった。


続編

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