夕暮れと君の手
放課後の教室は、いつものように穏やかな空気が流れていた。窓から差し込む夕陽が、ほんのりオレンジ色に染まった机や椅子に影を落とし、どこか懐かしいような香りが漂う。
天は、窓際の席に座ってぼんやりと空を眺めていた。ノートを広げているものの、そこに書かれている数式や文字は、彼女の頭にほとんど入ってこない。
天:数学って、なんでこんな難しいんやろ…
ぽつりと呟いた言葉は、誰に聞かれることもなく、ただ空気に溶けていった。
そんな天のもとに、一人の男子生徒が近づいてきた。○○だ。彼は、天と同じクラスで、いつも彼女に話しかける数少ない男子の一人だった。
○○:お疲れ、天。まだ勉強してんのか?
天:してへんよ。見てるだけ…
○○は、軽く笑いながら彼女の隣に座った。二人は小学校からの同級生で、お互いに特別な意識を持っていなかったが、最近になって、○○は彼女に対する感情が少しずつ変わりつつあることに気づいていた。
○○:ほんまに苦手そうやな。手伝おっか?
天:え、ほんまに?助かるわぁ…もう全然分からんくて、頭パンクしそうやで
天は少し照れくさそうに笑った。その笑顔はいつもと変わらない無邪気さで、○○は心が温まるのを感じた。
彼女に数学を教え始めた○○だが、ふとした瞬間に、天が彼を見つめる瞳が、なぜかいつもよりも柔らかいことに気づいた。しかし、彼女が自分にどう思っているのかは分からない。だが、そんなことを考えていると、ふいに天がため息をついた。
天:あぁー、やっぱり頭痛くなってきた…もう無理や…
○○:焦らんでええよ。少しずつやれば、そのうちできるようになるから
その時、教室のドアが勢いよく開かれ、田村保乃が入ってきた。
保乃:おーい!二人とも何してんの?勉強?
保乃は、にこにこと笑いながら二人に近づき、天の後ろから彼女のノートを覗き込んだ。
保乃:あ、また数学かいな。天ちゃん、ほんまに賢くないなぁ
天:保乃、ひどいわ!
保乃はそんな天を軽く叩いてから、○○に目を向けた。
保乃:○○、あんたも大変やな。天ちゃんに教えるん、めっちゃ時間かかるんちゃう?
○○:まぁ、でも楽しいで。天と一緒にいるのは
その言葉に、天は少し驚いた顔をした。○○がこんな風に自分を評価してくれるとは思っていなかったのだ。
保乃:ふーん、そっか。まぁ、がんばりや。ほんじゃ、うち行くわ!
保乃が教室を出て行くと、教室は再び二人きりになった。少し気まずい空気が流れる中、○○は天の顔を見た。
○○:天、今までありがとうって言ったことないよな?
天:え、なにが?
○○:俺、実はずっと天に感謝してる。天がいてくれたから、学校生活も楽しかったし、毎日が面白かったんだ
その言葉に、天の頬が少し赤く染まった。彼女は、自分が○○にとってそんなに大切な存在だったとは思っていなかった。
天:「さ○○、そんなこと言われたら…私、どうしたらええんやろ…
天は恥ずかしそうにうつむいたが、○○はそっと彼女の手を取り、優しく握った。
○○:俺、ずっと天のことが好きだったんだ。だから、これからもずっとそばにいてほしい
天はその言葉に驚きつつも、どこか心が温かくなるのを感じた。○○が自分にそんな想いを抱いていたとは、今まで全く気づいていなかった。
天:うちも…○○のこと、好きやで
二人は、照れながらもお互いを見つめ合い、教室に静かに流れる時間が一層甘いものに感じられた。
そこへ、今度は藤吉夏鈴が教室に現れた。
夏鈴:おっ、どうした?二人とも、いい感じじゃん。
天:夏鈴、やめてや!
夏鈴:いやいや、ほんとにええ雰囲気やと思ってね。あ、ちなみに保乃に聞いたよ。天、ほんまに○○と一緒に勉強してるんだってね
天:そ、そうやで…でも、勉強はほとんど進んでないけどな
夏鈴:まぁ、いいじゃん。○○、天のことよろしく頼むね
夏鈴はニヤリと笑いながら教室を去っていった。その後、天と○○は再び二人きりになり、静かに微笑み合った。
○○と天が微笑み合うその時、静かだった教室のドアがまた開かれた。今度は守屋麗奈が顔を覗かせ、ふわりとした笑顔を浮かべている。
麗奈:天ちゃん、○○君、まだ勉強中?
天:う、うん…まぁ、そんな感じやけど…
○○は天の様子を見て少し笑ってしまった。さっきまでの甘い空気が、麗奈の登場によって一瞬で和やかになったようだ。
麗奈:そっか、頑張ってね。あ、保乃ちゃんが言ってたけど、天ちゃん、もうちょっとで理解できそうやったんでしょ?
天:え、そ、そうなんかな?あんまりそんな気はしてへんけど…
麗奈:大丈夫だよ、私もあんまり得意じゃないし、一緒に頑張ろうね
麗奈の励ましの言葉に、天は少し安心した。いつも優しくて、みんなを見守るような麗奈の存在に、天は心から感謝していた。
麗奈:じゃあ、私は用事があるからこれで帰るね。また明日ね!
彼女が去った後、再び教室は二人きりになった。窓の外を見ると、夕陽はすっかり沈みかけていて、空は紫色に染まり始めている。
○○:天、そろそろ帰る?
天:そうやな…なんか、今日はちょっと疲れたわ
○○は彼女の鞄を手に取り、一緒に教室を出る準備をした。教室を出た二人は、並んで歩きながら少しずつ夕闇に染まる学校を見つめていた。
○○:なぁ、天。さっきの話、まだちゃんと言えてなかったけど…
天:さっきの話?なんやっけ…?
○○:天のこと、ずっと好きだったって話。今までは言えなかったけど、こうやって一緒に勉強したり、ふざけたりしてると、どうしても伝えたくなって
天は少し驚いた表情を見せたが、すぐに柔らかい笑顔に変わった。
天:ほんまに…?私、○○がそんな風に思ってるなんて、全然気づかんかった
○○:まぁ、そんなもんやろ。けど、俺は本気やで
天:…ありがとう、○○。うちも、ずっと○○のこと、気になってた
彼の手を握りしめながら、天は少し照れくさそうにそう言った。二人は、ゆっくりと歩みを進め、校門の前にたどり着いた。
そこに、突然保乃が現れた。
保乃:おーい、二人とも帰るん!?
またもや騒がしい登場に、天は苦笑いを浮かべる。
天:保乃、タイミング悪すぎや…
保乃:何言うてんねん!うち、ちゃんと見とったで。二人、ほんまにええ感じやな!そんなん隠さんと、もっと堂々とせなあかんで?
○○:隠してるつもりはないけどな…
保乃:ほら、天ちゃんも○○も、もっと大胆にならんと。うちやったら、もうバシッと言うで!
天:保乃はいつもそれやん…
二人は笑いながら、保乃に軽く手を振り、再び二人で歩き出した。
夕陽が完全に沈んだころ、二人は近くの公園に寄り道することにした。薄暗い公園のベンチに座り、静かに過ごす時間が心地よく感じられた。
○○:天、これからもずっと一緒にいような
天:うん…私も、○○と一緒にいたい
その言葉が、夜の静けさの中で響く。そして、二人はもう一度、互いの手をそっと握りしめた。まるで、その瞬間を永遠に残したいかのように。
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