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すれ違いの彼方で…

教室に響く午後のチャイム。日差しが少し傾き、教室の中に柔らかな光が差し込んでいた。窓際に座る藤吉夏鈴は、ふと窓の外に目を向け、微かに笑みを浮かべた。そんな彼女を横目で見ながら、守屋麗奈は少し首を傾げる。

麗奈:夏鈴ちゃん、どうしたの?なんか考えてる?

夏鈴:…ん?ああ、ちょっとボーっとしてただけ。

麗奈:珍しいね、夏鈴ちゃんがぼーっとしてるなんて。何か気になることでもあるの?

夏鈴は少し言葉に詰まり、視線を窓の外に戻した。実は、夏鈴にはある人物が頭から離れなかった。それは、〇〇――彼女のクラスメイトであり、最近よく話すようになった男の子だ。

夏鈴:いや、別に。

麗奈はその返答に少し不思議そうな顔をしながらも、それ以上は問い詰めなかった。彼女自身、心の中に同じような感情を抱えていたからだ。実は、麗奈も〇〇のことが気になっていた。しかし、夏鈴とは長い付き合いの友達で、彼女のことを一番に考えていたため、その気持ちを表に出すことはなかった。

そんな二人は、他の誰よりも親しく、そしてお互いのことを大切にしていた。

放課後になると、いつものメンバーが集まる。藤吉夏鈴と守屋麗奈に加えて、森田ひかる、田村保乃、そして山﨑天が揃っていた。彼女たちはいつも一緒に過ごし、どこへ行くにも一緒だった。

ひかる:今日もカフェ行く?なんか甘いもの食べたいな。

保乃:ええやん、それ。わたし、今日めっちゃ甘いもの食べたい気分や!

天:そんなん言うとるけど、保乃はいつも甘いもの食べてるやん。

保乃:天ちゃん!そんなん言わんといて!

天:事実やん。

二人の掛け合いに、夏鈴と麗奈は思わず笑ってしまう。こうしてみんなで集まる時間は、二人にとっても心が落ち着くひとときだった。

麗奈:夏鈴ちゃん、どうする?今日は行く?

夏鈴:うん、行こうかな。

夏鈴がうなずくと、みんなは教室を出てカフェへ向かった。途中で、天が〇〇のことについて話題にした。

天:そういえば、〇〇って最近どうしてるん?なんかちょっと元気ない気がするけど。

麗奈はその言葉に反応し、少し顔を曇らせた。

麗奈:うん、私も気になってたんだよね。前に話したときも、なんか疲れてるみたいだったし…。

夏鈴:そうだね、最近あまり笑ってないかも。

ひかる:〇〇って普段は明るいし、みんなとよく話してるのに、ちょっと心配だね。

保乃:あんまり気にせんでもええんちゃう?〇〇は〇〇なりに何か考えとるんやろ。

天:そうやな、あんま詮索したらあかんな。

話はそのまま流れ、カフェでの楽しい時間が始まった。しかし、夏鈴も麗奈も、心のどこかで〇〇のことが引っかかっていた。

数日後の放課後、夏鈴が一人で帰ろうと教室を出ると、〇〇が廊下で待っていた。

〇〇:藤吉、少し話せる?

突然の呼びかけに夏鈴は驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻し、頷いた。二人はそのまま静かな廊下を歩き、学校の裏庭へと向かった。夕陽が校舎をオレンジ色に染める中、〇〇は少し緊張した様子で口を開いた。

〇〇:実は、最近君のことが気になってて…その、もし良かったら夏休みに一緒に出かけない?

夏鈴は思わず心臓が跳ね上がるのを感じた。〇〇からの誘いは嬉しかったが、同時に麗奈のことが頭をよぎった。麗奈も〇〇のことが好きだということは知っていたし、そんな友達を裏切ることはできない。

夏鈴:…ごめん、少し考えさせて。

〇〇は少し寂しそうな表情を浮かべたが、無理に答えを求めることはせずに微笑んだ。

〇〇:もちろん、待ってるよ。

夏鈴は家に帰ると、すぐに麗奈にメッセージを送った。

夏鈴:ちょっと話したいことがあるんだけど、明日時間ある?

麗奈からの返信はすぐに返ってきた。

麗奈:うん、もちろん。どうしたの?

夏鈴はその言葉に少しホッとしたが、同時に不安が広がった。翌日、二人は学校の屋上で会うことにした。放課後の静かな空気の中、麗奈は先に到着していた。

麗奈:夏鈴ちゃん、どうしたの?なんかあった?

夏鈴は少しためらったが、正直に話すことに決めた。

夏鈴:実は、昨日〇〇に夏休みに一緒に出かけないかって言われたんだ…。

その言葉を聞いた麗奈は、一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻し、柔らかく微笑んだ。

麗奈:そうだったんだ。…実は私も、少し前に〇〇から同じことを言われたんだ。

夏鈴はその言葉に驚きと同時に、やはり自分たちの気持ちは同じだったのだと感じた。二人はしばらく黙っていたが、やがて麗奈が口を開いた。

麗奈:でも、私は夏鈴ちゃんとの友情を大切にしたいから、〇〇のことは諦めようかなって思ってる。

夏鈴:私も、麗奈との関係が一番大事だよ。〇〇のことは気になるけど、友達を裏切ることはできない。

麗奈:ありがとう、夏鈴ちゃん。お互いに正直に話せて良かった。

二人は笑い合い、その場で抱き合った。彼女たちはお互いの気持ちを尊重し、友情を選ぶことにしたのだった。

その後、夏鈴は〇〇に自分の気持ちを伝え、麗奈との友情を選んだことを打ち明けた。〇〇はその言葉に少し残念そうな表情を見せたが、理解してくれた。そして、彼は夏鈴ではなく、麗奈を選ぶことに決めた。

夏休みが終わり、新学期が始まると、〇〇と麗奈は自然と近づいていった。彼らの関係は徐々に深まり、やがて恋人同士となった。

一方で夏鈴は心にぽっかりと空いた穴を感じていたものの、麗奈との友情が壊れなかったことに安堵していた。二人でお互いの気持ちを共有したことで、夏鈴は次第に〇〇への恋心を整理し、友人として彼を応援できるようになっていった。

〇〇と麗奈が付き合い始めたという噂はすぐにクラス中に広まった。最初は驚きの声も上がったが、時間が経つにつれ、周囲の人々もその二人の仲の良さを認めるようになった。〇〇と麗奈は常にお互いを支え合い、周りから見ても微笑ましい関係だった。

そんなある日、夏鈴はふと学校の屋上に一人で行くことにした。そこは、かつて麗奈とお互いの気持ちを打ち明け合った場所だった。心地よい風が吹く中、彼女は空を見上げて深呼吸をする。

その時、足音が聞こえた。振り返ると、そこには森田ひかるが立っていた。彼女は夏鈴のそばに来ると、にこっと笑い、手を軽く振った。

ひかる:やっぱりここにいた。夏鈴、どうしてるのかと思ってさ。

夏鈴:ひかる…。うん、少し一人になりたくて。

ひかる:わかるよ。麗奈ちゃんと〇〇のこと、気になってるんじゃない?

夏鈴はその言葉に少し驚いたが、すぐに小さく頷いた。ひかるはそんな彼女に優しい目を向けた。

ひかる:別に隠さなくてもいいよ。辛い気持ちがあっても、言ってくれれば、私たちが支えるから。

夏鈴:…ありがとう。でも、もう大丈夫。二人のことは応援しようって決めたんだ。

ひかるは満足そうにうなずき、風になびく髪を手で整えながら言った。

ひかる:それならいいけど。みんな、夏鈴のこと心配してたからね。私たちはいつも一緒だし、無理しないでね。

その言葉に、夏鈴は再び胸が温かくなるのを感じた。友達の支えがあるからこそ、自分はこの感情を乗り越えられるのだと実感する。そして、彼女はこれからも仲間たちと一緒に前を向いて生きていくことを決意した。

季節は秋になり、学校の文化祭が近づいていた。クラスのみんなが一丸となって準備を進める中、〇〇と麗奈はますます仲を深めていった。彼女たちのクラスはお化け屋敷を企画し、各自が役割を担当していた。

藤吉夏鈴は、お化け役として裏方で働いていた。そんな時、麗奈がふいに近づいてきて話しかけた。

麗奈:夏鈴ちゃん、ねえ、少し手伝ってくれる?

夏鈴:もちろん、何をすればいい?

麗奈は笑顔を見せ、持っていた衣装を差し出した。

麗奈:この衣装、〇〇の分なんだけど、彼が遅れてくるから代わりに準備してくれないかな。

夏鈴はその言葉に微笑んで頷いた。〇〇のことを思うと少し胸が痛むが、もう彼女は乗り越えていた。自分がこの場にいる理由、そして友人たちと楽しい時間を共有することの大切さを再確認していた。

その日の文化祭は大成功に終わり、みんなで打ち上げを楽しむことになった。〇〇と麗奈は自然に手をつなぎ、仲間たちに笑顔を見せていた。藤吉夏鈴はそんな二人を見守りながら、これが自分の選んだ未来なのだと心から思った。

そして、彼女は森田ひかるや田村保乃、山﨑天と一緒に、これからもずっと大切な友人たちと歩んでいくことを誓った。どんなにすれ違いがあっても、彼女たちの絆は決して揺るがない――そんな固い友情がここにあった。

それから数ヶ月が経ち、〇〇と麗奈の関係はさらに深まっていた。周囲も二人を公認のカップルとして受け入れ、夏鈴も友人として心から二人を祝福していた。

ある日の放課後、夏鈴は再び屋上に上がった。夕陽が学校を赤く染め、穏やかな風が頬を撫でる。そこに、麗奈が一人で立っていた。

麗奈:夏鈴ちゃん…ありがとう。

夏鈴:何が?

麗奈:私と〇〇のこと、応援してくれて。正直、夏鈴ちゃんが気持ちを隠してたことに気づいてたんだ。でも、それを尊重してくれたこと、心から感謝してる。

夏鈴は一瞬、言葉を詰まらせたが、微笑みながら答えた。

夏鈴:そんなことないよ。私は自分の気持ちに向き合って、友達を大切にしたかっただけ。だから、二人が幸せならそれでいいんだ。

麗奈は目に涙を浮かべながら、夏鈴に感謝の気持ちを込めて深く頭を下げた。

麗奈:ありがとう。これからもずっと友達でいてね。

夏鈴:もちろん。

二人は屋上で夕陽を見ながら、静かな時間を共有した。これから先、どんな未来が待っていても、彼女たちはお互いを支え合っていくだろう。そう確信しながら。

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