希望の扉を開けるまで
向井純葉は高校二年生。彼女の笑顔は、どこか影を帯びている。
クラスでは目立つほうではなく、放課後の教室でも、誰かといるより窓際で静かに本を読んでいることが多かった。空を見つめるその瞳には、日々の悩みが溶け込んでいるようだった。
そんな純葉に声をかける一人の男子生徒がいた。
○○:向井さん、また一人で?
彼の声に純葉は顔を上げた。○○はクラスで明るく、誰とでもすぐに打ち解ける性格だった。
純葉:……うん、別に一人が嫌なわけじゃないけぇ。
○○:そうかもしれないけど、時々でいいから一緒に来てくれよ。今日も放課後、みんなで勉強会やるんだ。
純葉:勉強会?…でも、私、あまり得意じゃなくて。
○○:そんなの関係ないよ。みんなでやれば、楽しいし、気分も変わるだろ?
純葉はため息をつきながら、窓の外を見た。夕暮れに染まる空はどこか寂しげだったが、彼の言葉には、何か心を動かす力があった。
その日、彼女は思い切って勉強会に参加することにした。数人のクラスメイトが集まり、笑い声が絶えない。純葉は最初こそ緊張していたが、次第にその場に溶け込んでいった。
○○:な、意外と楽しいだろ?
純葉:……うん。少しね。
その帰り道、二人は並んで歩いていた。○○は何気なく空を見上げた。
○○:外の世界って、意外と広いよな。君も、もっと見てみるといい。
純葉:……私は、怖いの。新しいこととか、知らない場所とか。でも、今日みたいに誰かと一緒なら、少しだけ勇気が出る気がするけぇ。
○○:それなら、俺がそばにいるよ。少しずつでいい、一緒にその扉を開けてみないか?
季節は移り変わり、純葉は少しずつ変わり始めた。クラスの中で自分の意見を言うことも増え、友達と笑い合う瞬間が増えた。
しかし、ある日のことだった。○○が校内で倒れたと聞かされた。運動部の活動中に突然のことだったという。
病院へ駆けつけた純葉。○○は病室で笑顔を見せたが、その目にはどこか覚悟の色が浮かんでいた。
○○:ごめんな、驚かせて。ちょっと体が無理してただけだ。
純葉:どうして…そんな無理をするん?
○○:俺も、見せたい景色があったんだ。君と一緒に見たい未来が。だけど、それが叶わないかもしれない。
彼の入院生活が続く中、純葉は彼に向けて手紙を書き続けた。
「まだ見ぬ世界を見に行こう」
「そのドアを開けた先に、希望があると信じている」
歌のような言葉が彼女の心に浮かんでは消え、彼への手紙にしたためられていった。
そして数か月後、○○は奇跡的に回復し、再び彼女の前に立った。
○○:待たせたな。これからも一緒に、その扉を開け続けよう。
純葉:うん、一緒に。どこまでも。
二人の影は夕陽に溶け込み、新たな未来への一歩を踏み出した。
○○が退院してからの日々は、以前とはまた違った輝きを見せていた。
純葉は○○と過ごす時間が増え、学校生活もさらに充実したものになった。しかし、それと同時に、○○の体調が再び悪化するのではないかという不安も、彼女の胸の奥に静かに潜んでいた。
ある日、放課後の帰り道で、○○がふと立ち止まった。
○○:なあ、向井さん。
純葉:どうしたん?
○○:この先のことなんだけどさ、俺、ちゃんと考えてるんだ。進学とか、将来とか。……でも、もしまた倒れたらどうしようって、正直怖いんだ。
純葉は少し驚いた表情を見せた。○○が弱音を吐くことは滅多になかったからだ。
純葉:○○くん、あんたがそんなこと言うの、初めて聞いたけぇ。でも、それでええんよ。怖いことがあるなら、一緒に乗り越えようや。
○○:……ありがとう。やっぱり君には、何でも話せるな。
二人は試験勉強や進路相談をしながら、少しずつ未来への準備を進めていった。そんなある日のことだった。純葉がふと手に取ったノートには、これまで○○が書き溜めていた言葉が綴られていた。
「君と一緒に見る未来が、どんなに美しいものか、俺はずっと信じている。」
それを読んだ純葉の胸に、温かいものが広がった。そして彼女も、ノートに自分の思いを綴ることにした。
「一緒に歩む未来を、ずっと楽しみにしてるけぇ。」
卒業式の日、桜の花びらが舞う中で、二人は校門の前に立っていた。
○○:ついに卒業か……早かったな。
純葉:そうじゃね。いろいろあったけど、あんたと一緒やったけぇ、楽しかったよ。
○○:これからも、俺たちの物語は続いていくんだよな。
純葉:うん。どこにおっても、あんたとなら大丈夫じゃけぇ。
二人は笑い合い、静かに手を握り合った。その手の温もりは、未来への希望を確かに感じさせるものだった。
まだ見ぬ世界は広がっている。そのドアの向こうに、二人の新しい日々が待っているのだと信じて。