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Prisoner of the Past ~過去の囚われ人~ episode 08
異質な扉の向こうに広がるのは、○○が今まで見たどの時代とも異なる光景だった。
──近未来的なデザインの家具。
──ガラス張りの壁から見下ろす、見慣れない都市の景色。
──静寂の中に響く、高級マンションのような空調音。
目の前の女性──守屋麗奈は、微笑みながら○○と明里を迎え入れていた。
麗奈:ようやく会えたね
○○は警戒心を抱きながら、明里の手を引いたまま動かない。
○○:(これは罠か……? それとも、別の何か……)
彼女の雰囲気は、この異質な空間と同じくらい掴みどころがない。
○○:お前は何者だ
麗奈:ただの通りすがり。あなたのこと、ずっと見ていたの
彼女は優雅に椅子に腰掛けると、ゆっくりと紅茶を淹れた。
麗奈:あなた、何度も過去をやり直しているでしょう? それなのに、まだ成功していない
○○の表情が僅かに険しくなる。
○○:(こいつ……俺のことをどこまで知っている……?)
明里:……あなたは、○○の知り合いなの?
麗奈は微笑みを崩さないまま、明里に視線を向けた。
麗奈:いいえ。でも、あなたとは少し似た立場かもしれないわ
明里:……?
麗奈:あなたも運命に囚われた存在。○○は、そんなあなたを救おうとしている
彼女の言葉に、明里の表情が曇る。
○○は静かに麗奈を見据えた。
○○:お前の目的は何だ
麗奈:目的……ね。しいて言うなら、忠告かしら
麗奈は紅茶を一口飲み、穏やかに言葉を続けた。
麗奈:あなたが何度過去をやり直しても、世界はそう簡単に変わらないわ
○○の拳が僅かに握られる。
○○:(分かってる……分かってるが、それでも──)
麗奈:時間というものにはね、一定の秩序があるの。あなたがどんなに足掻いても、その秩序が乱されることはない。もし、無理に変えようとすれば──その代償は、想像以上に大きいかもしれないわ
その言葉の意味を、○○はすぐには理解できなかった。
──時間の秩序?
──代償?
どういうことだ?
○○:……それでも俺は、明里を助ける
麗奈は、その返答を予想していたかのように静かに微笑んだ。
麗奈:……そう。なら、あなたはこのまま進めばいい。でも……覚えておいて
彼女は立ち上がり、○○の目を真っ直ぐに見つめる。
麗奈:もし本当に”成功”したとしても、それが本当の意味での救いになるとは限らないわ
○○は何も言わなかった。
次の瞬間、視界が歪み始めた。
明里の声が遠ざかる。
麗奈の姿が霞む。
扉の向こうの風景が、再び夜の廃ビルへと戻っていく。
──気づけば、○○と明里は元の場所に立っていた。
まるで、幻を見ていたかのように。
○○は静かにペンダントを握りしめた。
○○:(俺は……何か間違っているのか……?)
──麗奈の言葉が、胸の奥に残り続けていた。