氷雨の約束

冷たい雨がしとしとと降り続けていた。

街の人々は皆、急いで足を速めて、傘をさしながら無言で歩いている。そんな中、理佐は交差点の角でじっと立ち止まり、灰色の空を見上げた。

どこか寂しげなその表情は、傍目からはわからない心の中の嵐を示しているようだった。彼女の横には、小さな透明のビニール傘が寄り添うように置かれている。

そして、彼女の目の前には、かつて好きだった男性──○○が立っていた。

○○：……久しぶりだね、理佐。

彼の言葉に、理佐はゆっくりと目を伏せた。もう会うことはないだろうと思っていた彼が、突然、こうして目の前に現れたことが、彼女の心を複雑にさせていた。

二人は以前、大学で知り合い、そして自然に惹かれ合うようになった。しかし、互いに言葉にしないまま別々の道を歩むことを選んでしまった。理佐は今も後悔している。自分が勇気を出して一歩踏み出せていれば、きっと今も彼の隣にいられたのだろうかと。

理佐：……どうして、ここに？

○○：ただ……君に会いたかったんだ。

彼のまっすぐな言葉に、理佐の胸は不意に熱くなる。そんな感情を隠すかのように、彼女は視線をそらし、無言で地面に目を落とした。冷たい雨は彼女の心の中まで染み込むようで、言葉を失わせた。

○○：ずっと、後悔していたんだ。あの時、僕が勇気を出せば、今も一緒にいられたかもしれないって。

彼の声が震えていた。理佐の心にも、同じような後悔があったことを認めたくなかった。自分だけがずっと彼を引きずっていたのだと、そう思い込もうとしていたのに。

しばらく沈黙が流れたあと、彼は傘を差し出し、理佐を雨から守るように肩を寄せた。その温かさが心にしみて、理佐は自然に涙がこぼれてしまった。

○○：もう一度、やり直せないかな？

彼の言葉に、理佐は驚きながらも小さくうなずいた。

理佐の胸は、これまでの冷たさが嘘のように、温かなものに包まれていった。

○○と再びやり直す。それは何度も夢に見た場面だったが、現実になるとは思ってもみなかった。口に出すことすら怖かったその願いが、今、彼の言葉によって現実として目の前に差し出されている。

理佐：……本当に、いいの？

彼女は震える声で尋ねた。心の奥では、まだ彼を信じることが怖かった。今度こそ失ってしまうことが怖かったからだ。けれど、彼の優しい眼差しを見つめると、不安よりも温もりが勝ってくるのを感じた。

○○：僕は、もう二度と君を離さない。

彼の言葉は静かで、しかし揺るぎない決意が込められていた。その瞬間、理佐の中で何かが解けたように、長年抱えていた重い荷がすっと消えていく。

彼女は涙を拭い、小さく微笑んだ。冷たい雨が降り続けていたが、その雨はもう二人を隔てる壁にはならなかった。

それからしばらくして、二人は一緒に歩き始めた。傘の中で寄り添い合い、街の喧騒の中でも、彼らだけが穏やかな時間を共有しているようだった。二人の足元に映る影は、徐々に一つに重なり合っていた。

途中、○○がふと立ち止まり、彼女を優しく見つめた。そして、おもむろに彼は理佐の手を取り、その手の温かさを確かめるかのように強く握った。

○○：これから先、どんな困難があっても、君と一緒に乗り越えていきたいんだ。

彼の真剣な眼差しに、理佐は胸がいっぱいになり、自然と微笑みがこぼれた。

理佐：私も……一緒にいたい。もう、離れたくない。

その言葉はまるで誓いのように二人の間に響き、冷たい雨の中でも温かな絆が生まれていた。二人は再び歩き出し、傘の下で寄り添い合う姿は、まるで長い時を経てやっと巡り会えた運命のように見えた。

やがて、雨が小降りになり、雲の隙間から光が差し込んできた。彼女は顔を上げ、ふと空を見上げた。そこには美しい虹が架かり、まるで二人の新たな未来を祝福するかのように輝いていた。

理佐はその景色を見つめ、隣にいる○○の存在に再び感謝した。この瞬間こそが、彼女がずっと望んでいた幸せの形なのだと実感した。

○○：これからも、ずっと一緒にいよう。

理佐：……うん、ずっと一緒に。

二人はしっかりと手をつなぎ、晴れやかに微笑み合った。氷雨の季節は終わり、彼らの心には新たな春が訪れていた。

それは、もう二度と冷たさに侵されることのない、永遠に続く温かな愛の始まりだった。

雨上がりの街で、二人の影は光の中へと溶け込んでいき、やがて誰もが振り返ることのない平穏な日常へと戻っていった。