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雪の向こうで君を待つ

冬の寒さが一段と厳しくなり、街中がクリスマスの雰囲気に包まれていた。

どこを見ても煌びやかなイルミネーションが輝き、恋人たちの笑顔が溢れている。

でも彼女にとって、この季節は少し切ないものだった。

天:あなた、元気でやってるかな?

自分の部屋に戻り、手に持ったスマートフォンを見つめる。

最後に○○から連絡があったのは、もう数週間前のことだ。

忙しいのはわかっている。

彼は遠く離れた地で、新しいプロジェクトに取り組んでいる。

「元気でやってますか?電話も最近かかって来ないけど……」

ふと口に出してみると、自分の心がどれだけ彼を求めているのか痛感する。

寂しい。

だけど、そんな弱音を○○に伝えるつもりはない。

天:中途半端に声を聞いたら、きっと泣いちゃいそう。

スマートフォンをテーブルに置き、ため息をつく。

ラジオから流れるクリスマスソングが部屋に響く。

この歌、彼もどこかで聞いているのかな?

思い出はいつも突然、鮮やかに蘇る。

○○と一緒に過ごした日々。

その中でも、去年のクリスマスは特別だった。

彼が手作りのディナーを用意してくれたのだ。

天:待ってるよ……。

口にしたその言葉が、空気に溶けて消える。

本当に待っている。

「クリスマスまでには、間に合うように帰って来てね」

彼がそばにいてくれるだけでいい。

ある日、天は仕事帰りに街の雑踏の中で立ち止まった。

目の前には大きなクリスマスツリー。

輝くオーナメントを見つめるうちに、ふいに涙が溢れそうになる。

天:平気、私なら。

いつも強がりを言い聞かせる自分に、少し嫌気が差す。

天:でも、やっぱり寂しいよ……。

その時、不意に背後から声が聞こえた。

○○:天。

驚いて振り返ると、そこに立っていたのは○○だった。

コートには雪がうっすらと積もり、息を切らしている。

○○:待たせてごめん。

その一言に、天の心は一気に解けていった。

天:○○……!

彼の腕の中に飛び込み、涙が止まらなくなる。

天:ほんまに、帰って来てくれたんだね。

○○:約束しただろ?クリスマスまでには戻るって。

その笑顔は、去年と変わらない温かさを持っていた。

二人はその夜、かつて一緒に訪れたレストランで食事を楽しんだ。

天が話す思い出話に、○○は笑いながら相槌を打つ。

積もり積もった話が途切れることはない。

そして、再びクリスマスソングが流れたとき、○○は天の手を握りしめた。

○○:来年も、再来年も、ずっと一緒にいよう。

天:うん……。

彼女の瞳に映る涙は、もう悲しみのものではなかった。

二人の心は再び一つに重なり、冬の夜空に響くベルの音が、これから始まる新しい日々を祝福しているようだった。

その夜、二人は何度も言葉を交わしながら、これまでの空白を埋めるように語り合った。

深夜、天の部屋に戻ると、窓の外には静かに雪が降り続けている。

寒さが増す中、部屋の中だけは二人の体温で温かく感じられた。

○○はソファに腰掛け、天が淹れたホットココアを手に取りながら、ふと静かに呟いた。

○○:これからは、もっと一緒にいられるようにするよ。

天:うん。でも、無理はしないでね。

天の声は優しく、そして少しだけ震えていた。

彼女は寂しさを感じながらも、ずっと彼を信じて待っていた。

だからこそ、今のこの瞬間が奇跡のように思える。

○○はそっと天の手を取った。

○○:来年のクリスマスも、再来年も、その先も……ずっと一緒に過ごそう。

天:……ほんまに?

○○:もちろん。今度こそ、離れない。

その言葉に天は微笑んだ。

そして、ふと彼女は窓の外を指差した。

天:見て、雪が止んだみたい。

○○も窓の外を見ると、雪は確かに止み、街灯に照らされた街並みが美しく輝いていた。

その光景に、二人はしばらく見入っていた。

夜が明ける頃、二人はまだ眠らずに寄り添っていた。

天は○○の肩に頭を預け、彼の穏やかな呼吸を感じている。

そんな彼女の耳元で、○○がそっと囁いた。

○○:天、ありがとう。

天:……何が?

○○:待っていてくれて。

天:当たり前やん。私が待たんかったら、誰があんたを待つの?

そう言うと、天は少し照れたように笑った。

その笑顔を見て、○○もまた微笑む。

二人の間にはもう、何の不安も、距離も存在しない。

そして、朝陽が二人を包み込む中、○○は天の手をしっかりと握り直した。

これから迎える未来がどんなものであれ、二人なら乗り越えられる。

そんな確信を胸に抱きながら、二人は新しい一歩を踏み出す準備をしていた。

クリスマスの魔法が解ける前に、二人の絆はさらに強く結ばれたのだ。

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