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君がいる風景

夕暮れの街がオレンジ色に染まる中、小林由依は何度も画面をスクロールしていた。
画面に映るのは、彼とのメッセージだ。
短い文面、でも心が揺れる。
彼の名前は〇〇。
かつて一緒に過ごした日々が、胸の奥で温かく残っていた。

由依と〇〇が出会ったのは、大学のサークルだった。
彼はいつも控えめな性格で、周囲の人たちからあまり目立たない存在だったが、その落ち着いた雰囲気が由依には心地よかった。
彼と初めて話したのは、サークルの飲み会の帰り道。
ふとした瞬間に二人だけが残り、街灯の下で言葉を交わした。

由依:暗くなると、いつも怖くなるんだよね…

そう言いながら、由依は少し笑った。
それに対し〇〇は、「じゃあ、家まで送るよ」と優しく答えた。
その瞬間、何かが変わった気がした。
〇〇の言葉に隠された静かな思いやりに、由依は気づいたのだ。

時が経つにつれ、二人は徐々に距離を縮めていった。
サークルでの活動後、自然に一緒に帰ることが増え、〇〇の温かな存在が、由依の日常に溶け込んでいった。
彼の誠実さ、些細なことで笑い合える時間、全てが心地よかった。

そんな二人を見守っていたのが、親友の渡邉理佐だった。
理佐は高校時代からの付き合いで、由依にとってはかけがえのない存在だ。
理佐は直感的に、由依が〇〇に特別な感情を抱いていることに気づいていた。

理佐:由依、あんた、本気で好きなんでしょ?

突然の質問に、由依は慌てた。
リビングでテレビを見ていた手を止め、理佐の顔を見つめる。

由依:え、そんなことないよ。ただ…一緒にいると安心するっていうか…

理佐:それが好きってことじゃん。〇〇が由依のこと、どう思ってるか分からないけど、こんなに仲良くしてるんだもん。きっと、悪い気はしてないはずだよ。

理佐の言葉に、由依の胸が少しだけ軽くなった。
彼に対して抱く不安や期待、それが少しだけ前向きな気持ちに変わったのだ。



季節が巡り、冬が近づいていた。街はクリスマスのイルミネーションで輝き、賑やかな雰囲気が広がっていた。
由依は〇〇と再び二人で帰り道を歩いていた。
街の喧騒とは対照的に、二人の間には静かな空気が流れていた。

由依:最近、忙しそうだね

由依がそう切り出すと、〇〇は少し困った顔をした。

〇〇:ああ、そうだね。就活とか、いろいろ考えることがあって…

由依:大変だよね。でも、〇〇なら大丈夫だよ。いつも一生懸命だし、誠実だから。

その言葉に、〇〇は笑みを浮かべた。
その笑顔に、由依は心が温かくなるのを感じた。

少し歩いた後、〇〇が突然立ち止まり、真剣な顔で由依を見つめた。

〇〇:由依…少し、話があるんだ。

心臓がドキリと鳴った。何かを予感する。
〇〇は一瞬、目を逸らしてから再び由依に視線を戻した。

〇〇:俺、ずっと伝えたかったことがあるんだ。君と一緒に過ごしている時間が、本当に楽しかった。毎回、君と話すだけで元気が出るんだ。でも…俺、この先、就職先が遠くになるかもしれなくて…それで、このままの関係じゃいけないって思ったんだ。

由依は〇〇の言葉に動揺したが、次に来る言葉を待った。

〇〇:だから…今、正直に伝えたい。俺、君のことが好きだ。もっと君と一緒にいたいって、ずっと思ってた。

不意に訪れた告白に、由依は何も言えず立ち尽くしていた。
彼が彼女に向けていた気持ちは、いつの間にか積み重ねられていた。
それは由依自身も感じていたが、どこかで踏み出せずにいた。

由依:私も…私も、〇〇のことが好き。ずっと前から、そう思ってた。

言葉がようやく口をついて出ると、〇〇はほっとした表情を浮かべた。
そして、二人は静かに見つめ合い、街の雑踏が遠くに感じられるほど、心が繋がった瞬間だった。



翌日、由依は理佐にその出来事を報告した。
理佐は電話越しに声を弾ませていた。

理佐:やっぱり!ね、言ったでしょ?〇〇、絶対に由依のこと好きだって思ってたんだ!

由依:うん…でも、これからのこと、どうなるか分からないけど…

理佐:大丈夫。どんなに距離が離れたって、気持ちがあれば乗り越えられるよ。それに、いつだって私が応援してるから。

理佐の言葉に、由依は再び笑顔を取り戻した。
どんな未来が待っていようと、今、彼と繋がった心があれば、きっと大丈夫だと信じられた。


それから数年後、由依と〇〇は遠距離恋愛を乗り越え、再び同じ街で暮らすことを選んだ。
あの冬の告白から始まった二人の物語は、まだ終わらない。
隣で微笑む彼の姿を見ながら、由依はこの先もずっと彼と一緒に歩んでいこうと心に決めた。

そして、いつもそばで見守ってくれる理佐の存在に感謝しながら、彼女の物語もまた、続いていくのだった。



続編

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