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偶然の導き
夕暮れの渋谷。人混みに飲み込まれるようにして、○○はふと立ち止まった。いつもなら訪れない街。しかし、今日は何となくここに来るべきだと思った。それが直感だったのか、それとも何かの導きだったのかは分からない。
スペイン坂を降り、帰路につこうとした瞬間、彼は階段の上から歩いてくる誰かに目を奪われた。
夏鈴:…○○くん?
彼女の声が、そのまま世界を止めるように響いた。
○○:夏鈴…?
偶然とは思えない再会だった。数年前、○○がまだ高校生だった頃、同じクラスで同じ空間を共有した彼女。クールで物静かな彼女にはどこか手の届かない印象があり、話す機会はほとんどなかった。しかし、今、目の前にいる彼女は変わらない美しさと、少し大人びた雰囲気をまとっていた。
二人は不思議と笑い合い、まるで時間が巻き戻ったかのようだった。
センター街の方へ歩きながら、○○は彼女と自然な会話を楽しんでいた。
○○:こんなところで会うなんて、ほんと偶然だな。
夏鈴:ほんまにね…私も滅多に渋谷なんか来えへんし。
○○:そっか…でも、今日来てよかった。
夏鈴はその言葉に少し驚いたようだったが、すぐに視線をそらし、小さく笑った。
「偶然っていつも不思議な答えをくれるものだ」という言葉が頭をよぎる。
二人が一緒に歩いている様子を見れば、まるで付き合っているカップルのように見えるだろう。○○はそんなことを考えながら、唐突にあることを口にした。
○○:ねぇ、どうせなら、俺たちこのまま付き合っちゃう?
軽い冗談のように聞こえるその言葉。けれど、その裏には確かな感情が隠れていた。
夏鈴:…何それ、急に。
○○:いや、ただの冗談だけどさ。でも…どうかな?
彼女は一瞬驚いたようだったが、やがて小さく頷いた。その仕草はどこか不器用で、けれど確かに本気だった。
二人はそのまま夜の渋谷を歩き続けた。初めてのデートのような、不思議な空気が流れる中で。
その夜のことを振り返るとき、○○はきっとこう思うだろう。「あの日、あの場所で、あの時間に渋谷に行かなかったら、この瞬間はなかった」と。
偶然のようで必然だった再会。二人はきっと、これからも何かの力に引き寄せられながら、一緒に歩んでいくのだろう。
夜の街はネオンに照らされて華やかさを増していたが、○○と夏鈴の間に流れる空気は静かで穏やかだった。軽い気持ちで口にした言葉に頷かれたことで、○○の胸には妙な緊張が広がっていた。
○○:…ほんとに、いいの?
夏鈴:なんで?
○○:いや、俺が言ったのって、半分冗談みたいなもんだったし…
夏鈴は歩みを止め、彼をじっと見つめた。その視線は真っ直ぐで、嘘偽りのないものだった。
夏鈴:私は…本気やけど。
その一言が、○○の中にあった迷いを一瞬で吹き飛ばした。彼女の不器用ながらもまっすぐな想いが、まるで偶然に見えたこの再会が、ただの偶然ではないことを確信させた。
二人はそのまま深夜まで歩き続けた。過去の話、これからの夢、そしてお互いに抱えている些細な悩み――どんな話題も途切れることなく続いた。
○○:高校の頃、なんであんなに話しかけづらかったんだろうな。今こうして話してると、そんな感じしないのに。
夏鈴:それは、○○くんが勝手に私を怖がってただけちゃう?
○○:いや、だって夏鈴って、いつも一人で静かにしてたから。
夏鈴:うん、でも…あの頃から○○くんのこと、ちゃんと見てたよ。
○○:…え?
夏鈴:だって、○○くん、結構おもしろいことしてたし。友達とも楽しそうに笑ってて…いいなって思ってた。
照れ隠しなのか、夏鈴は少し顔を背けながら話した。その言葉に○○は驚いたものの、同時に心が温かくなった。あの頃、何気なく過ごしていた時間も、彼女の目には映っていたのだ。
別れ際、○○はどうしても伝えたいことがあった。
○○:夏鈴、今日会えて本当によかった。
夏鈴:私も…こんな偶然あるんやなって思った。
○○:次は…もう偶然じゃなくて、ちゃんと約束して会おう。
夏鈴:…うん。
小さな頷きに、二人の間には確かな未来が生まれたような気がした。
それから数日後、○○の携帯に夏鈴からのメッセージが届いた。
夏鈴:今度、○○くんのオススメの場所、案内して。
その一言で、○○の心にはまた新たな期待が芽生えた。二人が偶然ではなく、必然として再び出会う日を、彼は心から楽しみにしていた。
「偶然の答え」に導かれるように始まった二人の関係は、これからどんな未来を紡いでいくのだろうか。けれど、確かなことはひとつ。あの夜に起きた「偶然」は、二人にとってかけがえのない「答え」になったということ。