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パンダの着ぐるみに隠した恋心

小林由依は、櫻坂46の卒業コンサートを終え、心の中に一つの空虚感を感じていた。舞台に立ち続けてきた数年間、その瞬間があまりにも速く過ぎ去っていった。しかし、コンサートを終えた直後の彼女には、もう一つの役目が待っていた。それは、パンダの着ぐるみを着て、会場を訪れるファンたちに笑顔を届けることだった。着ぐるみの中に身を隠すことで、彼女は普段とは違う形でファンと触れ合うことができる。彼女自身も、この役割に楽しさを感じていた。

着ぐるみの中にいることで、自由に動ける。しかし、その中で彼女の胸を締め付ける想いがあった。それは、櫻坂46としてではなく、一人の女性として誰かに想いを伝えたいという願いだった。そして、その相手こそ、幼なじみの〇〇だった。彼はコンサートにも駆けつけ、今もなお会場のどこかにいるだろう。

会場を歩き回るパンダの着ぐるみは、笑顔のファンたちに囲まれていた。しかし、その中に〇〇の姿を見つけた瞬間、彼女の心臓は一気に跳ね上がった。普段の彼なら、彼女に「頑張れ」と優しい言葉をかけてくれるはずだったが、今日は違う。小林由依は自分の正体を隠している。彼が自分だと気づくことはない。しかし、彼の存在だけで彼女は緊張していた。

〇〇は、パンダの着ぐるみを興味深げに眺め、友人たちと談笑していた。彼の笑顔を見ていると、小林は昔の思い出が蘇ってきた。二人は幼い頃から一緒に過ごしてきた。彼が彼女をからかっては笑い、彼女がそれに反論してまた笑う、そんな日々だった。しかし、アイドル活動が始まり、少しずつ距離ができた。互いに気持ちは伝えられないまま、大人になってしまったのだ。

突然、彼がこちらに向かって歩いてきた。小林の心臓はさらに強く打ち、息が詰まるようだった。彼は近づき、軽く笑ってパンダの頭を撫でた。

〇〇:なんだ、可愛いな。由依もこういうの似合うんじゃないか?

彼の冗談に、小林は胸が痛くなった。もちろん、彼は彼女だと知らない。パンダの着ぐるみの中で、小林は無言でその場に立ち尽くすしかなかった。

その後も彼は楽しげに会場を回り、友人たちと笑い合っていた。小林は彼の姿を遠くから見つめ続けた。彼の隣にいる女性が、楽しそうに彼に話しかける様子を見て、心の奥底に抑えていた感情が溢れ出しそうになった。彼女はふと、こんな形で彼を見守るしかない自分に虚しさを感じた。

夜が深まり、会場の喧騒も徐々に収まってきた。コンサートが終わり、ファンたちも帰り支度を始めていた。しかし、小林はまだパンダの着ぐるみを脱がずにいた。理由は簡単だ。〇〇に会いたかったからだ。正体を明かすべきか迷い続けていたが、時間が経つにつれてその想いは強くなっていった。

やがて、〇〇も帰る準備をしているのを見かけた。小林は意を決して、彼に近づいた。

パンダの着ぐるみを着たまま、彼の前に立ち塞がる。驚いた彼は、少し後ずさりしながら笑った。

〇〇:おいおい、パンダさん、どうしたんだ?俺に何か用でもあるのか?

小林は黙って彼を見つめ、やがてパンダの頭をゆっくりと外した。その瞬間、〇〇は驚きで目を見開いた。

〇〇:由依…?どうしてここに?

彼の驚きの表情に、小林は少し微笑んだ。しかし、その笑顔の裏には緊張と不安が渦巻いていた。彼に本当の気持ちを伝える時が来たのだ。

小林:ごめんね、こんな形で。でも…今日はどうしても話したいことがあって。

〇〇はしばらく沈黙していたが、やがて優しく微笑んだ。

〇〇:話してよ。何でも聞くよ。

小林は深呼吸し、言葉を絞り出すように話し始めた。

小林:ずっと、ずっと伝えたかったことがあるの。私、〇〇のことが好きだった。子供の頃から、ずっと。でも、アイドルになってから距離ができて、言い出せなかった。

〇〇は驚きながらも、真剣な表情で彼女の言葉を聞いていた。彼女は続けた。

小林:でも、今日、卒業して…やっと素直になれた気がする。私、〇〇のことがまだ好きなんだ。

一瞬の静寂が二人を包んだ。〇〇は目を閉じ、何かを考えているようだった。しかし、次の瞬間、彼は笑顔を浮かべ、小林の手を優しく握った。

〇〇:俺も…同じ気持ちだったよ。でも、由依がアイドルとして頑張っている姿を見て、邪魔したくなかったんだ。今まで何も言えなくて、ごめん。

小林の目に涙が浮かんだ。彼女はようやく、長い間心に秘めていた想いを伝えることができた。そして、彼もまた同じ気持ちでいてくれたことに、言葉では言い表せないほどの感謝と幸福を感じた。

会場の明かりが消え、静かになった駐車場で、二人は手を繋いで歩き出した。未来はまだ見えないけれど、彼と一緒なら何でも乗り越えられる気がした。

小林:これからも、私のこと支えてくれる?

〇〇は彼女の手をしっかりと握り返し、力強く答えた。

〇〇:もちろん。いつまでも一緒だよ。

二人の心は、もう離れることはないだろう。

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