明日、もう一度君に…②
翌朝、瞳月は昨夜の眠りが浅かったせいか、頭がぼんやりとしていた。枕元に置かれたスマホの画面には「6:30」と表示されている。いつもならあと30分は布団の中で過ごすところだが、今日は自然と目が覚めてしまった。心の中にわだかまる何か――それが彼女を落ち着かなくさせていた。
制服に袖を通しながら、昨日の会話が頭をよぎる。○○の東京行きと、彼の「夢」という言葉。瞳月はその言葉にどこか引っかかりを覚えながらも、彼のまっすぐな瞳を思い出すと、自分も応援したい気持ちが膨らんでくるのを感じた。
瞳月:……あんた、ほんまに遠いとこ行ってしまうんやな。
独り言のように呟いたその言葉に、自分自身が少し驚いた。まだ実感が湧いていないはずなのに、その寂しさだけは確かだった。
教室に着くと、まだ朝早いせいか、人影はほとんどなかった。瞳月は窓際の自分の席に座り、鞄から教科書を取り出す。だが、ページを開いても目の前の文字が頭に入ってこない。窓の外をぼんやりと眺めていると、教室のドアが静かに開き、谷口愛季が入ってきた。
愛季:おはよう、瞳月。今日も早いね。
彼女はいつもと変わらない明るい笑顔を見せながら、瞳月の隣に座った。瞳月は少し微笑んで返事をしたが、目線はまだ窓の外だ。
愛季:……何かあった? いつもより元気ないみたいだけど。
その問いかけに、瞳月は少し間を置いてからぽつりと答えた。
瞳月:○○が東京に行くんやって。
愛季は目を見開いた後、驚きを抑えるように穏やかに頷いた。
愛季:そうなんだ……。夢を追いかけるため?
瞳月:うん。音楽やりたいって言ってた。あんなん初めて聞いたから、びっくりして……
愛季はしばらく考え込むようにしてから、瞳月の顔を覗き込む。
愛季:瞳月、それで寂しいって思ってるんでしょ?
その直球の問いに、瞳月は言葉を詰まらせた。心の奥では否定できないその感情を、愛季に見透かされたような気がしていた。
瞳月:……そりゃ、寂しいよ。○○、いなくなったら学校もなんか味気なくなりそうやし……。
愛季は優しく微笑みながら、瞳月の手に自分の手を重ねた。
愛季:それなら、ちゃんと気持ち伝えなよ。応援してるって、素直に言えるのが一番だと思う。
瞳月はその言葉に心を動かされる。愛季の言う通り、自分の中にある思いを隠す必要はないのかもしれない。むしろ、今だからこそ素直に伝えるべきなのだと、少しずつ気持ちが整理されていった。
その日の放課後、瞳月と愛季は帰り道を一緒に歩いていた。秋風が心地よく、通学路沿いの木々が色づき始めている。
愛季:瞳月さ、これから何か始めたいこととかないの?
瞳月:んー、特にはないかな。でも、○○がおらんくなったら、私も何か頑張らなあかん気がしてる。
愛季は頷きながら、瞳月の言葉に耳を傾けていた。
愛季:そうだね。○○くんが夢を追いかけるなら、瞳月も新しい挑戦を見つけるの、いいと思うよ。お互い離れてても、成長していける関係って素敵じゃない?
瞳月はその言葉に力をもらい、少し前向きな気持ちになる。二人で夢を追いかける、それが遠く離れていても彼との絆を深める道だと感じ始めていた。
週末、○○が東京へ発つ日がやってきた。瞳月は早朝の駅へと向かい、見送りに行くことを決めた。ホームに着くと、すでに○○が待っているのが見えた。
○○:来てくれたんだ、瞳月。
彼は少し驚いた様子だったが、その表情には嬉しさも滲んでいた。
瞳月:最後にちゃんと伝えたかったんや。……東京で、頑張ってな。
瞳月の言葉に、○○の目が優しく輝いた。
○○:ありがとう。瞳月がそう言ってくれるなら、俺は絶対に夢を叶える。
瞳月は頷き、心の中で彼の成功を祈った。そしてその瞬間、二人の間に新たな絆が生まれたように感じた。距離が離れても、この想いはきっと消えない。
列車が到着し、○○は瞳月に手を振りながら車内へと乗り込んだ。その姿が見えなくなるまで、瞳月はホームで見送り続けた。
瞳月:……負けへんで、私も。
小さな声で自分に言い聞かせるように呟き、彼女は新たな一歩を踏み出した。