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明日、もう一度君に…①


日が傾き、街の公園に差し込む夕陽がオレンジ色に世界を染め上げる頃、瞳月は○○と向き合っていた。

二人の距離はいつもと変わらないはずなのに、今日は少し遠く感じる。沈黙が長く続き、互いに何を言えばいいのかを模索しているようだった。やがて、○○が静かに口を開いた。

○○:昨日の話、ちゃんと伝えたいと思って。

その声はいつもより少し硬く、緊張が滲んでいた。瞳月はそっと頷く。

瞳月:うん、話して。

彼女の声は柔らかいが、その内側にある不安は隠しきれなかった。

○○:俺、東京に行くことになったんだ。

唐突な告白に、瞳月の胸がきゅっと締め付けられる。彼の次の言葉を待ちながら、彼女は無意識に膝の上で手を握りしめていた。

○○:親の仕事の都合で、ってのもあるんだけど、それだけじゃない。俺、自分の夢を追いかけてみたいと思ってる。

瞳月:夢……?

瞳月の声が少し震えた。彼が「夢」という言葉を口にするのは初めてだった。これまで、彼は日々の出来事に流されるように生きているように見えたからだ。そんな彼が、自分の意思で未来を選び取ろうとしている。それは嬉しいはずなのに、心のどこかで引っかかるものがあった。

○○:音楽を本気でやりたいと思ってる。東京なら、そのチャンスがたくさんあるから。

彼の瞳は、まっすぐに未来を見つめているようだった。その瞳を見つめ返しながら、瞳月は複雑な思いを抱いていた。

瞳月:……すごいやん。そんな大きな夢持っとったんやな。

自分の感情を隠すように、瞳月は笑顔を作った。けれど、声のトーンはわずかに低く、笑顔もどこかぎこちなかった。それを察したのか、○○は優しい目で瞳月を見つめた。

○○:でも、君に言わずに行くのは嫌だった。瞳月には、俺の気持ちを知ってほしかった。

瞳月:そんな急に言われても……

視線を逸らし、瞳月は地面を見つめた。心の中では、彼を応援したい気持ちと、離れることへの寂しさがせめぎ合っていた。彼の夢を知ることは、彼との距離を縮めるはずだった。それなのに、彼の選んだ道が自分から遠ざかっていくのだと実感してしまう。

○○:俺は瞳月にとってどうでもいい存在かもしれない。でも、俺にとっては君が大事だ。だから……君がどう思ってるのか、ちゃんと聞きたかった。

瞳月:どうでもいいなんて、そんなん……

瞳月は言葉を詰まらせた。自分の感情をどう表現すればいいのか分からなかった。けれど、彼の真剣な眼差しを前にして、嘘をつくこともできない。

瞳月:……正直言うと、寂しい。あんたがおらんくなるの、怖いもん。

その一言に、○○の表情が少し緩む。瞳月が自分の本音を口にするのを聞いて、彼は少しだけ安心したようだった。

○○:そう言ってくれるだけで、俺は嬉しい。ありがとう。

彼はそっと手を伸ばし、瞳月の肩に軽く触れた。その温かさに、瞳月の心も少しだけ落ち着いた。

しかし、その一瞬の平穏の中でも、瞳月の心には新たな不安が生まれていた。東京に行く彼と、自分はどうやってこの関係を続けていけるのだろう。遠く離れた場所で、彼は夢を追いかける。その夢の中に、自分は居場所を見つけられるのだろうか。

瞳月:……東京で、頑張ってな。

そう言いながらも、彼女の声には微かな震えがあった。それを聞いた○○は、静かに頷いた。

○○:必ず成功して、また君に会いに来る。

その言葉が約束になるのか、ただの慰めなのか、瞳月には分からなかった。それでも、彼の決意を信じたいと思った。

日が完全に沈み、辺りは薄暗くなってきた。二人は公園を出て、それぞれの帰り道へと歩き始めた。瞳月の心には、彼との別れと再会への期待が入り混じっていた。彼がいなくなる未来は想像できない。でも、どんな未来であっても、自分の足で前に進むしかない。

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