憧れの先輩と、幼なじみと。
的野美青は、窓際の席でぼんやりと教科書を見つめていた。教科書の内容は全く頭に入ってこない。彼女の頭の中は、ただひとつのこと――いや、ただひとりの人物でいっぱいだった。
小林由依。
美青の憧れであり、校内でもファッションモデルとしても人気を誇る彼女だ。由依の姿はいつも完璧で、誰もが目を引かれる存在。美青は彼女のすべてに夢中になっていた。歩く姿、笑顔、そしてそのファッションセンス――どれもが美青にとっては尊敬の対象であり、羨望の的だった。
由依が校内を歩けば、誰もが彼女に注目する。美青もその一人で、遠くから見つめるだけで満足していた。だが、ある日、ふと彼女は考えた。
――もし、由依の義妹になれたら?
その考えが一度浮かんでしまうと、消すことができなかった。いや、むしろその考えはどんどん大きくなり、美青の心を占拠していった。
そして、美青にはその「方法」があった。
小林〇〇――彼女の幼なじみで、由依の弟だ。
〇〇と結婚すれば、由依の義妹になる。そうなれば、ずっと彼女の近くにいられる。美青はその不純な動機に気づいていたが、それでも構わなかった。彼女にとって、由依と繋がることが何よりも重要だった。
美青:結婚すれば、私は由依さんの家族になれるんだ…
そうつぶやく美青の心は、揺れ動いていた。
昼休み、美青は〇〇と一緒に校庭を歩いていた。二人は幼い頃からの親友で、自然と一緒に過ごすことが多かった。しかし、最近の美青の心には微妙な変化が起きていた。
美青:ねえ、〇〇。結婚って、どう思う?
突然の質問に〇〇は驚いた顔をしたが、すぐに笑って答えた。
〇〇:結婚? まだそんなこと考えたことないよ。美青はどう?
美青:私は…どうだろうね。
その言葉の裏には、彼女の計画が隠されていた。
〇〇は幼なじみとして、美青に対して特別な感情を抱いていなかった。だが、美青の心の中では、彼との結婚が一つの手段として浮かんでいた。〇〇も、彼女の幼なじみとして、無邪気に接してくるが、彼女はそんな彼に対して複雑な感情を抱いていた。
その日の放課後、美青はファッション雑誌を持って由依の教室へ向かった。
教室に入ると、由依が友達と笑いながら話している姿が見えた。その瞬間、胸がきゅっと締め付けられるような感覚に襲われる。
由依は美青に気づくと、優しい笑顔を向けた。
由依:美青、どうしたの?
その笑顔に、思わず顔が赤くなる。何度も見ているはずなのに、由依の笑顔にはいつも新鮮な魅力があった。
美青:あ、あの…この雑誌、先輩が載ってるんですけど、サインもらえますか?
少し緊張しながら雑誌を差し出すと、由依は笑って受け取った。
由依:もちろん、いいよ。どこに書けばいい?
美青は、ためらいながらも雑誌の表紙を指さした。
美青:ここに…
由依は丁寧にサインを書き終えると、にっこり笑って返してくれた。
由依:美青、私のファンなの?
その問いかけに、美青は思わず顔を伏せた。恥ずかしさと喜びが混ざり合い、何も言えなくなってしまった。
美青:え、ええと…そうです。大ファンです…
由依:ふふ、ありがとう。嬉しいよ。もっと私のこと、知ってくれると嬉しいな。
その言葉に、美青の心は舞い上がった。
家に帰った美青は、自分の部屋でベッドに転がり、由依のサインを見つめていた。小林由依ともっと近づきたい――その思いはますます強くなるばかりだった。
美青:どうしよう…私、〇〇と結婚しなきゃ…
そんな中、ある日のことだった。
美青と〇〇が一緒に歩いていると、突然由依が現れた。彼女は撮影帰りなのか、華やかな衣装をまとっていた。
由依:あ、〇〇、ここにいたんだ。美青も一緒なんだ。
由依の姿を見た瞬間、美青の心は一気に緊張で張り詰めた。〇〇が自然に由依と話しているのを見て、思わず胸が痛くなる。
由依:美青、また一緒に遊ぼうね。
その優しい声に、美青は微笑んで頷いた。
美青:はい…またぜひ…
だが、心の中では混乱していた。
〇〇が由依と楽しそうに話す姿を見るたびに、嫉妬と焦りが湧き上がる。自分が望んでいるのは由依との近さ――そのために〇〇との結婚を考えているのに、なぜこんなに苦しいのだろうか。
その晩、美青は〇〇に電話をかけた。
美青:ねえ、〇〇。ちょっと話したいことがあるんだけど…
電話越しの〇〇の声は、いつも通り優しかった。
〇〇:どうした? 何かあったの?
美青は少しだけ言葉を飲み込んでから、ゆっくりと話し始めた。
美青:私、〇〇のこと…ずっと好きだったんだ。でも、それは普通の好きじゃなくて…由依さんのことが好きだから、○○のことも好きだと思い込んでたの。
〇〇は沈黙したままだった。しばらくして、優しい声が返ってきた。
〇〇:美青、それでいいんだ。君が本当に大事に思ってるのが誰であれ、僕は変わらないよ。だから、焦らなくていい。
その言葉に、美青は泣きそうになった。
彼女が本当に求めていたのは、小林由依との繋がり。しかし、彼女が〇〇に感じていたのは、もっと別の感情だったのかもしれない。
そして、その夜、美青は心の中で小さな変化を感じた。
自分が本当に求めているものとは何か――それを探し続ける旅が、今始まったのだ。