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もう離れないで…

風が強く吹き抜ける秋の夕暮れ。街路樹がざわめき、その隙間から赤みがかった光が差し込んでいた。
的野美青は、幼なじみの○○と並んで歩きながら、ふと空を見上げた。その眼差しには、どこか懐かしさと切なさが混じっているように見える。

二人がこうして一緒に歩くのは、学生時代以来のことだった。大人になり、それぞれの道を歩む中で疎遠になっていたが、ふとしたきっかけで再会することになった。

長い沈黙が続いた後、美青が口を開いた。

美青:ねえ、覚えてる?昔、あの夏の日に二人で川に行ったこと。

○○:もちろん覚えてるよ。君が麦わら帽子をかぶって、マリーゴールドみたいに揺れていた。

彼女はその言葉に思わず微笑んだ。あの日、二人で川辺に座り、青い空と澄んだ水の流れを眺めながら語り合った日々が蘇る。今でも、あの夏の日々は彼女の心に鮮やかに残っていた。

季節は巡り、いつしか二人は別々の道を選ぶようになった。美青は忙しい日々の中で、自分が何を求めているのかを見失いかけていた。そんな彼女を支えてくれたのが、○○との思い出だった。

○○:美青、君はあの頃から変わらないね。相変わらず真っ直ぐで、でもどこか不安げなところがある。

彼の言葉に、彼女の胸の奥が温かくなった。自分が弱さを見せることができる相手は、やはり○○だけだと感じる。

美青:ねえ、○○。もし、あの時離れずにいられたら、私たちどうなってたかな。

○○はしばらく考え込んだ後、優しく微笑んで言った。

○○:きっと、お互いもっと強くなってたんじゃないかな。今みたいに、こうして一緒にいられることに感謝できる自分がいる。

彼の言葉に、美青はふと涙がこみ上げてきた。それは喜びと切なさが入り混じった感情だった。

彼らは夜道を歩き続けた。冷たくなり始めた秋の空気が、二人の距離をさらに近づけるように感じられる。

○○:美青、俺…

彼が言葉を紡ごうとした瞬間、彼女はそっと口を塞いだ。そして、彼の肩にもたれかかりながら、小さな声で言った。

美青:言わなくてもわかるよ。でも、もう離れないでね。

その言葉に、○○はそっと彼女を抱きしめ、柔らかな肌の温もりを感じる。二人の影は、街灯の下で静かに重なり合っていた。

「君が麦わら帽子をかぶって揺れていた日が、懐かしい。」彼は心の中で呟くようにその景色を思い出し、彼女をそっと抱きしめる。その瞬間、二人はただ静かに寄り添い合い、「いつまでも、いつまでも、このまま」でいたいと心の奥で誓うように、夜の街を歩き続けた。

二人は静かに歩き続けていたが、ふと美青が足を止めた。○○も立ち止まり、彼女の方を振り返る。少しだけ上目遣いで彼を見上げる美青の瞳には、どこか不安と決意が入り混じっていた。

美青:ねえ、○○…。もし、今度こそ私たちがまた離れちゃったら、きっと…私は、あなたに会いたくて泣いてしまうと思うの。

その言葉は、彼女の胸の奥深くに秘められていた本心だった。美青は、もう一度同じ過ちを繰り返したくはなかった。もう一度、彼と心からの「繋がり」を持ちたいと強く願っていた。

○○は少し驚いた様子で、しかし優しく彼女を見つめ返した。そして、そっと手を伸ばし、美青の手を握る。彼の手の温もりが、秋の夜風の冷たさを和らげてくれるようだった。

○○:俺もだよ。美青、俺はもう離れるつもりはない。これからどれだけ遠くに行ったとしても、俺たちは…心で繋がっていられると思う。

彼の言葉に、美青は心から安堵したように小さく息を吐いた。そして、○○がそっと彼女を抱き寄せると、美青は静かに目を閉じた。彼の肩に顔をうずめながら、心に浮かぶのは、あの夏の日々の思い出だった。まるで麦わら帽子を被った自分が、風に揺れていたマリーゴールドの花と重なるように──。

二人は、再び歩き始めた。秋の夜道は、どこか未来を予感させるような静寂に包まれていた。時折すれ違う人たちが彼らを見ても、二人はまるでその存在を感じることなく、ただ互いの温もりに寄り添って歩き続けた。

やがて、美青が小さく囁くように言った。

美青:ねえ、この夜に名前をつけるとしたら…なんて呼ぶ?

彼はしばらく考え込むように視線を彷徨わせてから、やわらかく微笑んで言った。

○○:そうだな…『始まりの夜』かな。

美青も微笑み、二人はゆっくりと手を繋いだまま歩き続けた。もはや言葉は必要なかった。二人の心が、この夜に、そしてお互いに繋がっていることを感じながら、静かに未来への一歩を踏み出したのだ。

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