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I am me

井上和は、いつものように高校の校庭に座っていた。秋の風が彼女の髪をかすめ、遠くの空には小さな雲がぽっかりと浮かんでいる。和は静かに手元のスマートフォンを見つめ、誰もいない時間を楽しんでいた。クラスの喧騒や、試験のプレッシャーから逃れるためのほんのわずかなひとときだった。

だが、和の心の奥底では、彼女自身の葛藤が渦巻いていた。

「自分は誰なんだろう?」

そう自問自答する日々が続いていた。乃木坂46の活動を通じて、彼女は多くの人々に愛され、応援される存在になった。しかし、輝かしいスポットライトの裏側で、和はしばしば自分の本当の姿を見失いがちだった。

そんな彼女にとって、〇〇の存在は何よりも救いだった。幼い頃からの親友であり、彼だけは和のアイドルとしての顔ではなく、一人の「和」として接してくれる数少ない存在だった。

〇〇:今日もここにいたんだな。風が冷たいのに

和はその声に振り返り、微笑んだ。彼が校庭の端から歩いてくる姿は、いつもと変わらない穏やかなものだった。

和:うん、ちょっと考え事をしてたの

〇〇:また悩んでるのか?和らしくないな

彼はそう言って、隣に腰を下ろした。風が二人の間を通り抜け、和は少し肩をすくめた。

〇〇:俺には何もできないけど、和が和でいるだけで十分だと思うけどな

彼の言葉は、和の心にじんわりと響いた。確かに、彼の前ではいつも「井上和」ではなく、一人の普通の少女としていられる。そんな彼の存在が、どれほど彼女にとって大きな支えになっているかは、言葉では表せないほどだった。

しかし、和は心の中でわかっていた。乃木坂46としての「和」と、一人の少女としての「和」のバランスを取ることは、簡単ではない。アイドルとして期待される姿と、自分自身が本当に望む姿。そのギャップが、日に日に大きくなっている気がしてならなかった。

和:私って、本当はどんな人なんだろう…

ふと、そんな言葉が口から漏れた。

〇〇は少し驚いた表情を見せたが、すぐに優しい声で答えた。

〇〇:そんなの簡単だよ。和は和だ。それ以外に何もないだろう?アイドルとして輝く和も、ここで悩む和も、全部ひっくるめて和じゃないか

和はその言葉に少し驚いたが、同時に少し救われた気がした。彼の言う通り、自分が誰かを決めるのは、他の誰でもない。自分自身だった。

それから数日後、和は学校を早めに出て、仕事のためにスタジオに向かった。今日も撮影がある。メイクや衣装に身を包み、鏡に映る自分を見ると、普段の和とはまるで違う存在がそこにいた。

スタッフが声をかけ、撮影が始まった。プロの顔に切り替えた和は、カメラの前で自然に笑顔を見せ、ポーズを決める。フラッシュが何度も瞬く中、和の心はどこか遠くにあった。

カメラマンの声が響く。

「素晴らしい、和ちゃん。次はもう少しクールな表情でいこうか」

和は指示に従い、表情を変えた。しかし、その瞬間、頭の中に〇〇の言葉がよぎった。

「和は和だ。それ以外に何もないだろう?」

和の心は一瞬揺らいだが、そのまま撮影を続けた。プロとしての顔を崩すことはできない。撮影が終わる頃には、和はいつものように疲れ果てていたが、同時にある種の達成感も感じていた。

夜、自宅に戻った和は、ソファに沈み込んだ。今日の撮影は成功だった。しかし、やはり心の中には何かが引っかかっている。

その時、スマートフォンが鳴った。〇〇からのメッセージだった。

〇〇:撮影終わったか?お疲れさま。明日、時間あったら少し話さないか?

和はそのメッセージに少し微笑んだ。彼との会話はいつも心を軽くしてくれる。和はすぐに返信した。

和:うん、ありがとう。明日、楽しみにしてる

その夜、和は少しだけ気持ちが軽くなり、眠りについた。

翌日、和と〇〇は学校の近くのカフェで待ち合わせをした。和は、普段のアイドルとしての自分ではなく、素の自分でいられるこの時間が何よりも好きだった。

〇〇:和、昨日の撮影、どうだった?

和:うん、無事に終わったよ。でも…なんだか自分がわからなくなる時があるんだよね

和は素直に心の内を打ち明けた。

〇〇は黙って聞いていたが、やがて穏やかに答えた。

〇〇:俺から見たら、和は十分自分らしいと思うよ。でも、もしそれがわからなくなった時は、俺が教えてあげるよ。和は和だって

その言葉に、和は思わず涙ぐんだ。自分を理解してくれる人がいること。それがどれほど大きな力になるか、改めて感じた。

和:ありがとう、〇〇。少しだけ、気持ちが楽になった

彼女はそう言って微笑んだ。

そして、その瞬間、和は気づいた。

「I am me」

どんな状況でも、自分自身を見失わないこと。

それが、今の自分にとって何よりも大切なことだと。

和はこれからも、乃木坂46の一員として、そして一人の井上和として、自分らしく歩んでいこうと心に決めたのだった。

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